退院の日の朝、舞とリシュネは雅樹の部屋にいた。
「こんなもんでいいかな」
元々何もない部屋だったが、今はさらに何もない部屋になっていた。
「金のある人は自由でいいわよねー。あたしなんて一生こんな所に住めないかもしれないのに、あっさり引き払っちゃうんだもの」
「お金、なぜ持っているの?」
「知らない。教えてくれないもの」
掃除も終わり、部屋の隅にはみっつのバッグが置かれている。これが、雅樹の全所持品と呼べるものだった。中身は、本当に必要な生活道具といった変哲のないものばかりだった。
「ま、大事なものは貸金庫とかに入れてるのかな。お金はあるだろうし」
「舞は、雅樹のことどう思ってるの?」
リシュネのストレートな質問に。舞も応えた。
「好きよ」
「好き……」
「そう。でもね……ううん、なんでもない」
自分が言おうとした言葉を無理矢理飲み込んで、首を振る。
日に日に、穂香という存在を身近に感じていく……存在を肯定し始めてる、せざるを得なくなってきている。だから……。
この言葉は、言ってはいけない、言葉にしてはいけない言葉だから。
「好きって、私、まだよく分からない……」
「まだ、子供だからなんじゃない? って、私が言える義理じゃないか」
「そういうことじゃなくて……なんか」
「なんか?」
リシュネの眉間にしわが寄った。
「なんか、イヤな味のする言葉……」
「イヤな味……ねぇ」
舞が理解に苦しんでいる間、リシュネの深層意識が表層へと吹き出そうとしていた。リシュネはそれを無意識のうちに押し込む。夢の中のように暑苦しく、でもとても現実的な何かが、リシュネの頭の中で巡るましく動いていた。
「リシュネ……?」
様子がおかしいと感じた時、ドアホンが鳴った。舞はそれを取り、リシュネは目を覚ました。
「……私……?」
「はい、朴です」
モニターに現れたのは女性だった。白黒のモニターで、サングラスを掛けていたが、それでも舞はそう直感した。
「あなたは?」
「おまえこそ何者だ。朴殿はどうした。あいつ、まさか穂香を捨てたのか?」
その乱暴な口振りに驚くよりもまず、雅樹に詳しいことにふたりは驚いていた。
「こんなもんでいいかな」
元々何もない部屋だったが、今はさらに何もない部屋になっていた。
「金のある人は自由でいいわよねー。あたしなんて一生こんな所に住めないかもしれないのに、あっさり引き払っちゃうんだもの」
「お金、なぜ持っているの?」
「知らない。教えてくれないもの」
掃除も終わり、部屋の隅にはみっつのバッグが置かれている。これが、雅樹の全所持品と呼べるものだった。中身は、本当に必要な生活道具といった変哲のないものばかりだった。
「ま、大事なものは貸金庫とかに入れてるのかな。お金はあるだろうし」
「舞は、雅樹のことどう思ってるの?」
リシュネのストレートな質問に。舞も応えた。
「好きよ」
「好き……」
「そう。でもね……ううん、なんでもない」
自分が言おうとした言葉を無理矢理飲み込んで、首を振る。
日に日に、穂香という存在を身近に感じていく……存在を肯定し始めてる、せざるを得なくなってきている。だから……。
この言葉は、言ってはいけない、言葉にしてはいけない言葉だから。
「好きって、私、まだよく分からない……」
「まだ、子供だからなんじゃない? って、私が言える義理じゃないか」
「そういうことじゃなくて……なんか」
「なんか?」
リシュネの眉間にしわが寄った。
「なんか、イヤな味のする言葉……」
「イヤな味……ねぇ」
舞が理解に苦しんでいる間、リシュネの深層意識が表層へと吹き出そうとしていた。リシュネはそれを無意識のうちに押し込む。夢の中のように暑苦しく、でもとても現実的な何かが、リシュネの頭の中で巡るましく動いていた。
「リシュネ……?」
様子がおかしいと感じた時、ドアホンが鳴った。舞はそれを取り、リシュネは目を覚ました。
「……私……?」
「はい、朴です」
モニターに現れたのは女性だった。白黒のモニターで、サングラスを掛けていたが、それでも舞はそう直感した。
「あなたは?」
「おまえこそ何者だ。朴殿はどうした。あいつ、まさか穂香を捨てたのか?」
その乱暴な口振りに驚くよりもまず、雅樹に詳しいことにふたりは驚いていた。