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風雅、舞い - 第五章 変化 (9)
 ふたりは一応バッグを持って、一階へと降りる。
 舞はその第一印象で敵意を持った。黒いBMWに寄りかかり煙草を吸うその女性は、同じ黒で統一した服で身を包んでいる。身長は180ほど、そのスタイルはモデルとしても十分通用するものだと舞は感じた。その脇に立てられた高価そうなゴルフバッグも、奇妙な威圧感を与えるのに役だった。
 サングラスを外し、女性はふたりを一瞥する。
「朴殿は? わざわざ私が届け物を渡しに来てやってるんだ、直接受け取るというのが筋だろう」
「今、病院にいます」
「病院? はっ、まさか」
「本当です。普通の人なら瀕死の重傷でした」
「朴殿がそれほどの傷を負うとは……これが必要になるわけだ。で、その病院は?」
「それより、あなたは誰なんです」
「答える義務はないな」
「じゃぁ、教えられませんよ?」
「ガキが何を言うのかと思ったら……大人を怒らせない方が、いいわよ」
「子供の私は、とっくに怒っているんですけど」
「へぇ、じゃぁ怒ったらさぞかし怖いんだろうな」
「試してみます?」
「やれるもんなら」
「じゃ」
 一瞬だった。宙を舞った水がその軌跡を刃と変え巨大な青龍刀が女性の喉元に触れた。女性は、動けなかった。気付けば、一緒にいた少女もいない。そして、背後に気配を感じる。リシュネは車の上に寝そべり、後頭部をつついていた。
「私達だって、雅樹に勝るとも劣らない力を持ってるんだから。これからは私達も「殿」を付けてもらわなくちゃね」
「泉の力、朴殿と同じ力か……」
「そういうこと。じゃ、あなたが誰なのか教えてくれる?」
 舞は水をペットボトルへと戻し、リシュネも車から降りた。女性は首を撫でてから、額を拭いた。
「……名前は吉良 ゆかり。朴殿から頼まれていたものを持ってきただけだ」
「頼まれていたもの?」
「さぁ、さっさと病院へと連れていけ! とにかく、直接渡すまでは帰らんからな。もし、荷物だけ持っていくというのなら、死んでも渡さんからな。渡したあとなら、どうとでもされてやる」
「そんな、別にそういうつもりで言ったわけじゃないんですけど……」
 投げやりな発言に気圧される舞を置いて、リシュネが一歩進み出て言う。
「じゃ、私達も連れてってください」
 リシュネはつかつかと歩き、車に乗った。舞は呆気に取られていたが、気を取り直して自分も車に乗った。ゆかりは苦虫を噛み潰したような顔を隠そうともせずに、運転席へと乗り込み乱暴にキーを回した。
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