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風雅、舞い - 第五章 変化 (10)
 病院の雅樹の部屋も、すでに片づけが済んでいた。雅樹はいつものぼろい服へと着替え、わずかな手荷物をチェックしていた。
「え? ……あ、言うの忘れてたわ……」
 雅樹がばつの悪そうな顔をしているときに、三人の女性が入ってくる。
「雅樹、お客さんよ」
「朴殿、持ってきてやったぞ」
 そう言って、ゆかりは大きなゴルフバッグを部屋へと置いた。その表情は、明らかに不機嫌そのものだった。
(すまなかった、舞。昨日言うの忘れちゃってな)
(それより、この人誰なんです?)
(いや、それがな)
「聞いているか? 商品の説明をさせてもらうぞ」
「ん? ああ。いつものやつじゃないのか?」
「五本はそうだ。一本、新しいものを入れてある。これだ」
 ゆかりはゴルフバッグからクラブをひとつ抜き取り、カバーを外した。そこにあったのは、紛れもなく刀そのものだった。ゆかりがそれを放り投げ雅樹が取るのを見ている間、本物なのかどうかと舞は考えていた。
 その考えの答は、抜き放たれた刀身を見れば一目瞭然だった。本当に何でも斬れそうな、触るものすべてを斬り裂いて止まない、そういう意思を強く感じさせる刀だった。
「これ、雅樹が使うの?」
「ああ。で、これのどこが新しいんだ?」
「刀身に窒化ケイ素を使っている」
「ちっかけいそ?」
「俗にセラミックスと呼ばれるものだ。斬れ味鋭く、錆、刃こぼれなし。さらに、超高温にも耐える。朴殿の蒼炎にも耐える」
「マジかよ……」
「じゃぁな、確かに渡したぞ。金はいつもの所にな」
 とだけ言って、ゆかりは部屋を出て行ってしまった。乱暴に閉めたドアが再び開いた。
「あの人、どんな人なんです?」
「稀代の刀鍛冶さ。でもよ、今じゃなんか目を付けられてるみたいで、なにかってーと高い刀売りつけやがる。銃刀法違反とかでぼったくってくるから、今回六本で四百万だ」
「……」
 そんな値段付ける方も付ける方なら、買う方も買う方だと舞は思った。
「それ、貸してもらえます?」
「気を付けろよ」
 リシュネは刀を左手で受け取る。右前腕の腹を少し見つめたあと、その場所を壁へと打ち付ける。肉のぷにぷにした部分とは思えない硬質な音が返ってくる。
 その部分を、刀で薙いだ。血が噴き出した。血の滴る刀を見ながら、リシュネは言った。
「この刀、すごい……」
 慌てふためく舞の側で雅樹は言った。
「ま、ここが病院で良かったな」
「良くないっ!!」
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