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風雅、舞い - 第五章 変化 (12)
 駅前、ロータリーの端に白いバンが停められている。車の前には六人の人影があった。舞、雅樹、リシュネ、洋一、俊雄、奨がそれぞれの表情を浮かべている。
「それ、なんとかしなよ」
「どうせ誰も本物だとは思わないだろ」
 雅樹の小さなバッグには五本の刀を入れるだけのスペースはなく、鞘に入れたまま肩にかついでいた。
「その傷はあれで?」
「普通の刃物が、あそこまで切れるなんて知らなかった」
 リシュネのうっすらと残る傷を見ながら、洋一は感嘆していた。そして、雅樹に尋ねる。
「その刀、銘はなんというんだい?」
「銘って、正宗とか村正とか、そういうの?」
「この五本は、怒馳(どはぜ)って呼んでたけどな……ん? そりゃいいな」
 穂香のアイディアを聴いて、雅樹は言う。
「命名、炎撫(ほむらなぜ)だ」
「なぜ、というのは撫でるとかそういう意味かい?」
「ああ。炎を撫でる、そういう意味だそうだ」
「ふ〜ん。それはいいんだけど……本当に、来るの?」
 俊雄の脇に、大きな登山用ザックが置かれていた。
「うん。僕はまだ、逃げ出したくないから」
「それはうれしいんだけど……」
 舞の荷物は、雅樹並に少なかった。
「だって、結白さんかなり山奥にあるとか言ってたでしょ?」
「そりゃそうだけど……他の人は、来たいとか言わないでよね」
「俺は、大学が終わってから行くよ。これ、頼むな」
 奨は奇妙な包みを舞に渡す。
「何これ」
「むこうに行ってからのお楽しみ、らしい」
「変なの。……リシュネは、来ないんだね」
「私達は定期的にメンテナンスを受けなきゃいけないから。舞の田舎って見てみたかったけど」
「APには無駄なダメージを負ってもらいたくないからね。ま、そのダメージに見合う何かが得られるんだったらいいけど、今回は行って帰ってくるだけでも相当時間が掛かるからなぁ」
 本当は行かせたくない親のように、洋一は説明した。
「ウソつき。ヘリコプター使えば楽に行けるくせに」
「碧き泉の周りはヘリでも近づけないような場所なんだよ。リシュネがそんなところ飛行してみろ、どっか分かんないところに吹っ飛ばされちゃうぞ」
「そんなドジしないもの」
「……さて、行くとするか」
 雅樹が荷物を持つが、舞と俊雄はそれほど乗り気ではなかった。
「ふたり、来なかったね……」
「うん……」
 落ち込みながらも、雅樹が何か話をしているのをめざとく気付く。
「何話してるの?」
「あ、いや、そのふたりがいますぐそこまで来てるんだけど……置いてった方がいいかもよ?」
「?」
「それって、まさか……」
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