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風雅、舞い - 第六章 帰郷 (1)
「は〜、着いたぁ」
 無人駅を出て、恭子は思わず地面にしゃがみ込んでしまった。ただ電車を乗り継いできただけだったが、それだけでも相当疲れていた。俊雄も壁に寄り掛かる。空を見上げれば、星々がまばゆかった。
「まだ着いてないわよ」
「え〜?? なに? これからどのくらいかかるの?」
 舞と雅樹は、何度か通っている経路というのと荷物が軽いということがあって、まったくと言っていいほど疲れを見せていなかった。
「今日はあそこで泊まるから。明日朝早く出て、夕方前に着ければいい感じかな」
「夏だからな、日が長くていいわ」
「泊まるって……あそこにぃ!?」
 確かにそこは旅館に見えた。だが、三百年前のものと言われても信じてしまいそうなほどのぼろさだった。外装を勤める木々は黒く腐り、玄関が裸電球ひとつで照らされている。
「上に三キロ行ったところに、もちっといい宿あるけどな」
「でも、ここって安いんだよねー。私は慣れてるから、こっちで泊まるけど?」
「じゃ、僕もそうします」
 即答する俊雄に、恭子は頭を抱える。あんたがそんなこと言ったら、私はどうすればいいのよ……そりゃ、あんたはそう言うしかないだろうけどさ。
「どうする? 君が行くんだったら、俺が付いてってもいいぜ」
 雅樹の発言に、三人はそれぞれの驚きを見せた。
「どうしたの? そんなサービス精神ふかしちゃって」
「いや、五十万持ってきてっからさ、贅沢もいいかなってな」
「そんなの、この山奥で役に立たないでしょ……」
 イヤな人間になりたくなくて俊雄は黙っていたが、ラッキーとは思っていた。
「じゃ、私行きます!」
「え”」
「でも、贅沢って?」
「一泊2万だけど」
「……私、こっちでいいです」
 恭子はヘボ旅館の方へとぼとぼと歩いていった。
「ったく、あたしがこっちに泊まってて、襲われでもしたらどうするつもりだったの?」
「あいつにか?」
 指差す方には俊雄がいた。
「違うって! ほら、いつもの奴等よ。あの辻っていう人とか、LWだというのとか」
「穂香がいるからな」
「あ、そか……」
 と、素直に納得してしまう自分を、舞は不思議に感じていた。
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