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風雅、舞い - 第六章 帰郷 (2)
 旅館の中は、見た目とは裏腹のきれいさだった。白を基調とした清潔な雰囲気を感じさせた。
「こっちで良かった……」
 雅樹は当然のようにふたつの部屋を取り、四人は当然のように雅樹と俊雄、舞と恭子に別れて部屋に入った。その間、奇妙な緊張感が漂い続けていた。
 畳敷きの部屋は、決して狭いものではなかった。窓際にある板張りの床に置かれた椅子に雅樹は座り、ゆったりとしながら何もない空間と会話を始めた。その会話の中に割り込む勇気は俊雄にはなかった。
 舞と恭子の部屋では、恭子が広げた荷物と格闘していた。舞は小さな荷物の中からお風呂セットを取り出していた。
「ホント、手慣れてるわねぇ。そういえば、ここのお風呂ってどんな感じなの? 実は混浴とか」
「だったらここに泊まるなんて言わないわよ」
「ってことは、どっちともそういうのはないわけだ」
「あるわけないでしょ。だいたい何よその言い方は、まるであたしがふたまたかけてるみたいじゃない」
「そう見えるけどね〜」
 目的のものを取り出した恭子は、広げた荷物をザックに戻し始める。舞は椅子に座ってそれを待つ。
「でもさ、木村君はともかく、朴さんて、結構手早そうじゃない? ワイルドな感じでさ」
「ダメよ。まだあいつには、穂香さんしか眼中にないんだから」
「でも、その穂香さんって、幽霊みたいのなんでしょ?」
「そりゃ、そうだけど」
「ってことは……」
 イヤラシイ笑みを浮かべる恭子に、舞は呆れていた。
「でぇ? 私がこのないすばでーで悩殺するっての?」
「ま、あんたにそういうの期待するのはムリね」
「自分で振っといてそういうこと言う?」
 ふたりは笑いながら部屋を出る。その笑い声が、俊雄の部屋にも聞こえてくる。
「?」
「風呂に行くんだろ。ここの風呂は居心地いいぞ、俺達も行くか?」
「……ぢつは混浴だとか」
「んなわけないだろうが! もしそうだったら、穂香が泊まらせてくんないって」
「そうなんですか……」
 俊雄はザックから荷物を広げる。雅樹はすでに準備を終えて、再び会話を始めていた。俊雄には、それはちょっとした口論のように感じられた。
 俊雄から見ても、その姿に不自然な部分は見受けられない――穂香の姿も見えなければ声も聞けないという点以外は。演じているようには見えず、話の脈絡も矛盾がない。会話のテンポも単調でなく、内容もめぐるましく変わっていく。
 穂香が存在するのかどうかは判らない。が、もし存在するのだとしたら、と、俊雄は矛盾を感じた。
 ずっと昔から一緒にいて、そんなに仲良くいられるのだろうか、元気な会話をし続けられるほどの仲で居続けられるのだろうか……。
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