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風雅、舞い - 第六章 帰郷 (6)
「……以上が今回の被害です」
 ブリーフィングルームには洋一、リシュネと少年、そしてディルトが座っている。智子はノートのパッドに触れて画面を進めた。
「しかし、今回の問題は未曾有のものでした。私はこの建物のセキュリティは決して甘いものではないと考えます」
「……難しい状況だな」
 洋一は椅子に深々と座り、ため息を付いた。その膝には、おはるさんがいつものように丸まっている。
「今回の件で、敵はさらに戦力を増強するだろう。政府も再び傾き始めた。と言うよりは、その価値に気付き始めたと言った方がいいかな?」
「僕達の方に付けば、もっと利口にしてあげたのに」
「政府に全面戦争を挑むだけの戦力は、我々にはないと思います」
「確かに我々は無力だ。だが、彼らも、ある敵には無力だ」
「舞達?」
 洋一は首を振った。
「<闇>……ですね?」
「そう。闇の力はとてつもない。特に、ただ鈍重なだけの現行兵器ではまったく歯が立たない」
「でも、<泉の力を受け継ぐもの>は勝てるんでしょ?」
「ミナクートは壊滅を逃れるためのプロテクトの一種として弱点を常に作っていたんだ。それが……というわけさ」
 新しい情報に慣れていると言っても、その底知れなさは奇妙であり驚異でもあった。
「んじゃ、作戦を決める。リシュネと君は<闇>について調査してくれ。うまく利用できないか、とかね」
「え……」
 それは、舞の故郷に行っていいことを意味していた。
「寄り道せずにちゃんと帰ってくるんだぞ。これ以上先生を困らせるな?」
「リシュネはいいんだけど、君はねぇ」
「うるさいなぁ」
「ディルトは牽制攻撃をしてもらう。こっちだってただやられてるだけじゃないってことを示さなければね」
「全滅させてはいけないということだな」
「つまんないの、あんなヤツらみんな殺しちゃえばいいのに」
「窮鼠猫を噛む、だ。しかも、かわいいネズミさんは猫の後ろにいる熊に気付かないみたいだからな」
「じゃぁ、その熊に僕らも踏みつぶされちゃいますね」
「かもな」
 不意に襲った沈黙が、緊張を作りだした。僕らも、闇に……?
「んじゃ、ブリーフィングはこれで終了。今日はメンテを受けて、ゆっくり休むように」
 おのおのが立ち上がり、部屋を出ていく。OSを閉じている智子に洋一はそっと近付いた。
おおとり夫妻は安定まであとどのくらいかかる?」
「あと三ヶ月は……このバージョンで胚と成人では雲泥の差がありますから」
「……辛い戦いが、続きそうだな」
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