「だから、電気だってちゃんと通ってるんだってば」
雅樹はそう力説していたが、舞はいまいち半信半疑のままだった。
「自分で見ないと信じないから。もう少しで家なんだし」
「なんだよぉ、ほら、あれ見ろよ、あれもそうなんだって」
雅樹が指差す方向には、言われてみれば電気が通りそうなケーブルが横に伸びているようにも見えるが、遠くの木の枝の上を渡っているそれは、「よくわからないもの」でも十分通用しそうに見えた。
「ねぇ、木村君はどう思う?」
「とりあえず、電気くらいは通ってても不思議とは思わないけど……ま、その方が便利かな」
「そりゃそうね」
恭子と俊雄は、ふたりのケンカから少し離れるようにしてあとを追っていた。あと少しということで、ふたりの表情も心なしか緩やかになっていた。
「じゃぁさ、電話とかはどうなわけ?」
「電話はまだじゃねぇかなぁ……お、到着ってところだな」
「あ……」
これまでの「道」とは到底呼べないようなものから、土と砂利できれいに舗装された道へと変わる。景色も大きく変わり、道の回りには大きな石が並んでいたが、その中から樹木が生え、道を覆っている。
その道はなだらかな坂道になっていたが、坂は上るに連れて幅が広くなり、登り切ったところでは公園のように広々とした空間が生まれていた。
「ねぇ、この音、何?」
言われてみて、俊雄は気付く。とても大きな音が、途切れることなく響きわたっている。
「あれの音よ」
「え……滝!?」
広場の対面にある岩肌から、幅広の水の帯が垂れている。その水は広場を横切り、そして山の中へと消えていく。その川を越える橋の向こうに、ロッジやコテージと表現するのが正しい感じの家が岩肌の間にはめ込まれたように建てられていた。
「ここが、碧き泉……」
「泉そのものは、あの滝の裏側にあるんだけどね。それにしても、ま、とりあえず懐かしい、かな」
嫌な故郷、と言ってはいたものの、生まれた時から慣れ親しんだこの環境に還ってくれば、遠い過去の記憶が舞を癒してくれる。背伸びをし、大きく息を吸う。湿った、青い匂いのする空気をできる限り取り込もうとする。ため込んだそれをゆっくりと吐き出してから、空を見上げる。
形のはっきりとしない雲がまばらに存在するだけの真っ青な、空。しかし、空が見えるのは真上だけで、周りは岩肌が囲み、その岩肌の向こうにまた岩肌が覗かせるといった、コンクリートジャングルに似た光景だった。
「あ……どうやら、本当みたいね」
晴れ晴れとした表情から一転して、苦虫を噛み潰したような表情でケーブルが家の中へと入っていくのを舞は確認した。
「でーも、電気が通ったってあまり役には立たないと思うけどね。テレビの電波だって届かないんだし」
「舞、多分テレビは見られると思うよ……」
「え?」
恭子の指差した方では、衛星放送のアンテナが青空へと向いていた。
雅樹はそう力説していたが、舞はいまいち半信半疑のままだった。
「自分で見ないと信じないから。もう少しで家なんだし」
「なんだよぉ、ほら、あれ見ろよ、あれもそうなんだって」
雅樹が指差す方向には、言われてみれば電気が通りそうなケーブルが横に伸びているようにも見えるが、遠くの木の枝の上を渡っているそれは、「よくわからないもの」でも十分通用しそうに見えた。
「ねぇ、木村君はどう思う?」
「とりあえず、電気くらいは通ってても不思議とは思わないけど……ま、その方が便利かな」
「そりゃそうね」
恭子と俊雄は、ふたりのケンカから少し離れるようにしてあとを追っていた。あと少しということで、ふたりの表情も心なしか緩やかになっていた。
「じゃぁさ、電話とかはどうなわけ?」
「電話はまだじゃねぇかなぁ……お、到着ってところだな」
「あ……」
これまでの「道」とは到底呼べないようなものから、土と砂利できれいに舗装された道へと変わる。景色も大きく変わり、道の回りには大きな石が並んでいたが、その中から樹木が生え、道を覆っている。
その道はなだらかな坂道になっていたが、坂は上るに連れて幅が広くなり、登り切ったところでは公園のように広々とした空間が生まれていた。
「ねぇ、この音、何?」
言われてみて、俊雄は気付く。とても大きな音が、途切れることなく響きわたっている。
「あれの音よ」
「え……滝!?」
広場の対面にある岩肌から、幅広の水の帯が垂れている。その水は広場を横切り、そして山の中へと消えていく。その川を越える橋の向こうに、ロッジやコテージと表現するのが正しい感じの家が岩肌の間にはめ込まれたように建てられていた。
「ここが、碧き泉……」
「泉そのものは、あの滝の裏側にあるんだけどね。それにしても、ま、とりあえず懐かしい、かな」
嫌な故郷、と言ってはいたものの、生まれた時から慣れ親しんだこの環境に還ってくれば、遠い過去の記憶が舞を癒してくれる。背伸びをし、大きく息を吸う。湿った、青い匂いのする空気をできる限り取り込もうとする。ため込んだそれをゆっくりと吐き出してから、空を見上げる。
形のはっきりとしない雲がまばらに存在するだけの真っ青な、空。しかし、空が見えるのは真上だけで、周りは岩肌が囲み、その岩肌の向こうにまた岩肌が覗かせるといった、コンクリートジャングルに似た光景だった。
「あ……どうやら、本当みたいね」
晴れ晴れとした表情から一転して、苦虫を噛み潰したような表情でケーブルが家の中へと入っていくのを舞は確認した。
「でーも、電気が通ったってあまり役には立たないと思うけどね。テレビの電波だって届かないんだし」
「舞、多分テレビは見られると思うよ……」
「え?」
恭子の指差した方では、衛星放送のアンテナが青空へと向いていた。