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風雅、舞い - 第六章 帰郷 (10)
「あっ舞さん、お帰りなさい!」
 舞達一行が家の中に入った時、すぐ側にいた30代前半くらいの女性が喜びの笑顔で迎えた。が、舞の苦虫を百匹噛み潰したような表情にその笑みも驚きに変わる。舞は「ただいま」とぶっきらぼうに言って、勝手知ったる我が家へと乗り込んでいった。
 10畳以上ある居間の扉を開けた時、驚きのあまり母親の存在に気付かなかった。
「あら、お帰り……?」
 口をあんぐりと開けたまま、顔がゆっくりと旋回する。居間の端には30インチの大型ハイビジョンテレビが備え付けられており、壁には天井から垂れ下がるようにしてアメリカのバスケットボールやメジャーリーグのポスターが所狭しと貼られていた。
「あ、野茂だ」
「なんか、悪趣味……」
「……結白さん、もしかしてこの前運んだ割れ物注意の無茶苦茶重かったのって……」
「あら、皆さんそんな所に立ったままで、座ってくださいよ」
 先ほどの女性に促されて、雅樹達は中央のテーブルを囲んで座る。放心状態の舞も、促されるままに座った。鼻に届いたおいしそうな匂いが、舞の目を覚ました。
「あれ、おかあ……さん?」
 舞は、目の前に並べられたごちそうに、きょとんとしていた。
「なんなの、これ?」
「何言ってんのよ――娘の、ひさしぶりの帰郷じゃない」
 その言葉を、想いを感じ取るのに舞は長い長い時間を掛けた。それだけの間、味わいたかった。そして、その喜びが、ゆっくりと顔に現れる。満面の笑みを浮かべて、舞は子供用にうなずいた。
「……うん!」
「じゃ、乾杯しましょうね」
 先ほどの女性が、コップにジュースをついで、全員に渡していた。
「ありがと、楠居さん……ううん――ただいま」
 今初めて言うように、想いをたっぷりと込めて、舞は言った。
「お母さんも……ただいま」
 美咲も、その想いを受け止めて、ゆっくりとうなずいた。舞はグラスを片手に、全員を見る。母さんも楠居さんも久しぶりに会ったのに、木村君も恭子も、そして雅樹も最近会ったのに――。
 なんだか、ずっとずっと昔から一緒だったような気がする。
 そして、いつまでも――。
「カンパーイ!!」
 コップが、一斉に鳴った。
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