KAB-studio > 風雅、舞い > 第六章 帰郷 (11)
風雅、舞い - 第六章 帰郷 (11)
 闇と、光点。
 鍾乳洞のように巨大な洞窟。ごつごつした岩肌の球面の底に、水が溜まる。外界からの光は月明かりのみだが、その明かりも巨大な空間を照らし出すには十分ではなかった。
 それとは別の明かり。泉の中央にある、ひとつ突き出た大きな岩は、上面が平でテーブルのようになっていた。その上に置かれたろうそくの明かりが周囲のわずかな範囲を照らし出していた。岩肌と水面、ろうそくの隣に置かれた絹の衣、泉に裸体を浮かべる舞。
 舞の眼は閉じられている。だが、眠ってはいなかった。先ほどまでのバカ騒ぎを思い出して、口元が笑む。あんなこと、いつまでもは続かない。でも……。
 強いショックを感じて舞は体を起こす。自然と顔が赤らんでいく。
「雅樹!! こっち来ないでっ!!」
「いえ!? なんで判るんだよ」
「ここは私のテリトリーなのよ、そのくらい判らなくてどうするのよ」
 中央の岩肌に体を隠し、雅樹がいるであろう方向を睨み付ける。もう、何考えてるのかしら、それに、さっき食べ過ぎたせいでおなかも出ちゃってるし……って、そんなこと考えてもしょうがないけどっ。
「大丈夫だって、この距離じゃ何にも見えねぇって。ま、穂香なら見えるけどな」
「だったら来ることないでしょ。ほら、帰った帰った」
「……ったくなぁ、ちゃんと用があるから来たんだ! おまえの兄さんが襲われたとよ!」
「え……お兄ちゃんが!?」
 思わず体を伸ばす舞。
「へぇ、おまえって胸小さいんだな」
「……ほぉ?」
 指をすいと上へと上げれば、泉の中から巨大な水龍が現れた。それは音もなく雅樹へと襲いかかる。
「ま、まったまった、ウソだって見えてないって穂香も言わないって!」
 舞は指を止め、水龍は雅樹の目の前で硬直する。
「……で、お兄ちゃんはどうだったのよ」
「リシュネ達が察知していたから、なんとか、な。リシュネは今日こっちに来る予定だったみたいで、散々ぼやいてたぜ……な、こいつどけてくれよ」
「ふん」
 ぱちんと指を鳴らせば、水龍はただの水の塊に変わった。当然雅樹は水攻めにあった。
「あ〜あ、びしょぬれだよ」
「脅かした罰よ」
「ま、濡れちゃったんだったらこのまま泳いで行っても変わんないか」
「試してみればぁ? 茨の道を歩くよりも大変でしょうけどねぇ」
 そんな軽口を、お互いの姿が見えないまま、言い合っていた。
 検索