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風雅、舞い - 第六章 帰郷 (12)
「……ね……」
「ん?」
「……ううん……うん、雅樹……」
「なんだ?」
「私とこんな風に話していてさ、穂香さん、怒らないの?」
 舞は、直感的に雅樹の不機嫌さを感じた。
「穂香は、今、いない」
「いないって……」
「いや、この表現は適切じゃないな。俺達のあたりからの情報を遮断して、他の所を見てる、ってところかな。最近、穂香はな……」
 そして、雅樹は黙る。これ以上話したくないような話題があるとは、正直舞は思っていなかった。
「ねぇ、雅樹、なんか変だよ?」
「何が?」
「何がって言われると難しいけど……」
「なら変じゃないんだろ」
「でもだって、ほら」
「うっせぇよ!」
「え……」
 舞は驚き、そして雅樹も驚いていた。
「いや、すまん、なんか……ダメだわ、俺行くな」
「えっ、ちょっと待って!」
「……」
 泉を通して、雅樹が背を向けているのが判る。舞は、その背中を引き留めるカードも言葉もない。ただ気持ちだけが、視線だけが雅樹を包み込んでいた。
 行かないで欲しい、もっともっといろんなことを話したい……でも、何を話せるのだろう、雅樹は何を話してくれるのだろう。私は雅樹のことを、何も、知らない……。
「穂香は、俺に……俺は……」
「雅樹……」
 沈黙の合間に、言葉が浮かぶ。雅樹もまた、なぜか、そこにいたまま、去ろうとはしていなかった。
「……穂香が、穂香が……今情報を集めて、いる。他の泉の情報があったら、そこに行ってくる。もしなかったら、一度朱き泉に戻る」
「雅樹の、故郷……」
「明日の朝、桜の木の下で待つ」
「桜って、あの道沿いの……?」
「ああ。……あとは、舞次第、そうする」
 そして、雅樹は去った。
「私次第……」
 って、どういうことだろう。雅樹の言葉の意味を、舞は理解できなかった。
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