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風雅、舞い - 第七章 告白 (3)
「だいたい」
 美咲の言葉に、リシュネは日本茶を飲みながら耳を傾けた。
「あの泉が突然光った時に初めて、私は書庫に入ったくらいだもの」
「それまでは調べようという気が起きなかった?」
「その必要がなかった、と言う方が正しいわね。必要な事は母から口伝で教わっていたし、それで十分だった」
「消極的ね」
「当然よ。私だって継ぎたくなかったから」
 こんなこと、2人には言えないけどね。
「母親から教わった事は?」
「泉は水の力の源だとか、だから管理しないといけないとか、水の力の使い方とか、そういうこと。そもそも」
 美咲は茶をすすった。
「ここが碧き泉って名前で、他に泉があるって事も、あの文献を読んで初めて知ったんだから」
「他って」
「あ、朱き泉ね。似たような泉があるって聞いたことはあるけど、それだけ。彼は自分の事はあまり話そうとしないから」
「確かに、あの人ってそういう感じの人ですよね」
 ずっと話しだけを聞いていた恭子が口を挟んだ。と言うより、チンプンカンプンな単語が多くて話題に参加しようがなかった。
 ちなみに俊雄は、気の抜けた顔のまま、ぼーっと聞いていただけだった。
「だから、彼の故郷とか、朱き泉の場所とかは訊いたことなかったし、言ってくれもしなかったから、場所は判らないのよ」
 リシュネは頭を下げた。
「ありがとう」
「え、ええ……」
 そしておもむろに立ち上がる。
「書庫?」
「一応、自分の目で確認したいから」
「楠居さん、案内してあげて」
「はい」
 にこやかな顔で割烹着姿の女性がリシュネを案内する。
 美咲は閉じたドアの先をずっと見つめ続け、2人の足音が聞こえなくなって初めて。
「……ふぅ」
 気の抜けた声を出して姿勢を崩した。
「?」
「あ、ううん、なんでもないの」
 そう、緊張していたのは私だけ。汗ばむ手は、確かに震えていた。
「よく……」
 と言ってから、ふたりの視線を感じて、言葉を飲んだ。
 よく、舞はこんな化け物と一緒にいられる……。
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