リシュネは30分ほどで戻ってきた。
「早かったね」
恭子が言う。美咲はすでにいない。
「……読めなかった」
「?」
「難しい字が多くて……」
ああ、と恭子は納得した。
「昔の文献だものね、旧字体とか使われてるんでしょ」
「それもあるけど、私、完全に日本語使いこなせるわけじゃないから」
「え、そうなの?」
リシュネを完璧な存在として見ていた恭子にとって、それは意外な事実だった。
「私のバージョンだと情報処理能力はあまり強化されてないから。彼ならテキスト読めばすぐに取り込める」
「彼って、あの男の子?」
リシュネはうなずく。
「あなたとあの少年って、能力的に違うってこと?」
「私は実験体だから」
「実験……体……?」
恭子の声がこわばった。
「でも」
それをリシュネは感じ取った。
「私は洋一に感謝してる。だって、APになれなかったら、私、死んでいたから」
「え?」
と訊くのを断るように、リシュネは立ち上がった。
「帰る」
「え?」
「メンテナンス受ける必要があるから。飛んで帰れたら、もう少しいられるんだけど」
「うん、わかった……」
メンテナンス。私達にとっては食事を取るようなものなのかもしれない。でも、それはどこででもできることじゃない。
自由が、ない。
「リシュネ」
居間から出ようとするリシュネを、恭子は呼び止めた。
「また、来てね。舞も朴さんもいないけど」
「……」
リシュネは沈黙して、少ししてから、ほんの少し、うなずいた。
リシュネが扉を閉めてから、少し経って美咲が入ってくる。
「……」
「……???」
美咲にジト目で睨まれても、恭子は理解しかねた。
「早かったね」
恭子が言う。美咲はすでにいない。
「……読めなかった」
「?」
「難しい字が多くて……」
ああ、と恭子は納得した。
「昔の文献だものね、旧字体とか使われてるんでしょ」
「それもあるけど、私、完全に日本語使いこなせるわけじゃないから」
「え、そうなの?」
リシュネを完璧な存在として見ていた恭子にとって、それは意外な事実だった。
「私のバージョンだと情報処理能力はあまり強化されてないから。彼ならテキスト読めばすぐに取り込める」
「彼って、あの男の子?」
リシュネはうなずく。
「あなたとあの少年って、能力的に違うってこと?」
「私は実験体だから」
「実験……体……?」
恭子の声がこわばった。
「でも」
それをリシュネは感じ取った。
「私は洋一に感謝してる。だって、APになれなかったら、私、死んでいたから」
「え?」
と訊くのを断るように、リシュネは立ち上がった。
「帰る」
「え?」
「メンテナンス受ける必要があるから。飛んで帰れたら、もう少しいられるんだけど」
「うん、わかった……」
メンテナンス。私達にとっては食事を取るようなものなのかもしれない。でも、それはどこででもできることじゃない。
自由が、ない。
「リシュネ」
居間から出ようとするリシュネを、恭子は呼び止めた。
「また、来てね。舞も朴さんもいないけど」
「……」
リシュネは沈黙して、少ししてから、ほんの少し、うなずいた。
リシュネが扉を閉めてから、少し経って美咲が入ってくる。
「……」
「……???」
美咲にジト目で睨まれても、恭子は理解しかねた。