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風雅、舞い - 第七章 告白 (4)
 リシュネは30分ほどで戻ってきた。
「早かったね」
 恭子が言う。美咲はすでにいない。
「……読めなかった」
「?」
「難しい字が多くて……」
 ああ、と恭子は納得した。
「昔の文献だものね、旧字体とか使われてるんでしょ」
「それもあるけど、私、完全に日本語使いこなせるわけじゃないから」
「え、そうなの?」
 リシュネを完璧な存在として見ていた恭子にとって、それは意外な事実だった。
「私のバージョンだと情報処理能力はあまり強化されてないから。彼ならテキスト読めばすぐに取り込める」
「彼って、あの男の子?」
 リシュネはうなずく。
「あなたとあの少年って、能力的に違うってこと?」
「私は実験体だから」
「実験……体……?」
 恭子の声がこわばった。
「でも」
 それをリシュネは感じ取った。
「私は洋一に感謝してる。だって、APになれなかったら、私、死んでいたから」
「え?」
 と訊くのを断るように、リシュネは立ち上がった。
「帰る」
「え?」
「メンテナンス受ける必要があるから。飛んで帰れたら、もう少しいられるんだけど」
「うん、わかった……」
 メンテナンス。私達にとっては食事を取るようなものなのかもしれない。でも、それはどこででもできることじゃない。
 自由が、ない。
「リシュネ」
 居間から出ようとするリシュネを、恭子は呼び止めた。
「また、来てね。舞も朴さんもいないけど」
「……」
 リシュネは沈黙して、少ししてから、ほんの少し、うなずいた。
 リシュネが扉を閉めてから、少し経って美咲が入ってくる。
「……」
「……???」
 美咲にジト目で睨まれても、恭子は理解しかねた。
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