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風雅、舞い - 第七章 告白 (12)
『舞は……知らないんだよな、手に掛けようとしたこと』
 え?
『あのとき、結白さんが俺を殺ってくれたから、俺は舞の前で倒れることができた。もしそうなってなかったら、俺は結白さんだけじゃなく、舞も……』
 あのとき。
 目の前にいた雅樹は、私を殺そうとしていた……ううん、きっと私だけじゃなく、視界に入ったすべての人を、殺そうとしてたんだ。
『今思い出しても最高だぜ!? ずーっと現れなかったおまえが、霧の中でピンチになったときに現れて、右!って。振り向いたら後ろからがつん、だもんなぁ』
 雅樹はけらけらと笑っている。
『あんときのおまえの機転がなかったら、今頃は、ってことだ。感謝してる』
 雅樹の目が薄く伏せられ、刀をみつめる。
『俺はこれからも、こいつでやっていかなきゃならない。舞を、結白さんを護りたい。でもそれは、護りたいって気持ちなんだ。そして俺にとって必要なのは』
 雅樹は左側へと真摯な瞳を向ける。
『おまえなんだ』
 滴が、小川に落ちる。
『もう俺は、あの頃には絶対に戻りたくないんだ。たとえそれが自分の能力を妨げるものになるとしても……でも』
 再び刀を見つめる。
『護ろうとすれば、相手が強大なら、全力を出すしかない。そのとき俺を止められる、俺を導いていけるのはおまえだけなんだ。いや、おまえに頼みたい。俺の……俺の一部になって欲しいんだ』
 雅樹は答えを待った。
『……かもな。でもいいさ、それでもな』
 雅樹の顔が笑みに変わる。
『だいたいよ、俺はおまえが好きだって言ってんだぜ? 贅沢言うなって』
 少し間が開いて、笑い声があがる。
『じゃ、始めっとすっか』
 涙に濡れながら、何を? とふと疑問に思う中、雅樹はやや前屈みになり、右手を……
「!!!!!!」
 舞は急いで手を引き抜き、小川から出、大きな岩の影に隠れた。
 止めようもなく息が荒い。真っ赤な顔は先の涙を蒸発させていた。驚いていた表情は、一転、しかめっ面に変わり、
「バカァ!!」
 と強く叫んだ。
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