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風雅、舞い - 第八章 朱と碧 (1)
 朱き泉。
 直径500メートルもないであろう敷地を、岩壁が囲んでいる。ぱっと見では、自分たちが入ってきた入り口以外に外への道はない。
「さながら小さな砦ってところね」
「おまえんところだってそうだろう」
「え?」
 自分の故郷をそういう視点で見たことはなかった。
 それに、この場所は自分の故郷とはだいぶ違う。畑があり、牛がいて、自給自足ができているように見える。
「あ! 久しぶり!!」
 畑の中にいた男が雅樹に声を掛ける。
「おう! 赤葉(せきは)様は!?」
「さっき泉の方に行くの見かけたぞ!!」
「あんがと!」
 大声の会話は、親しげだった。
「泉って、やっぱ朱き泉?」
「もちろん。……どうした?」
 雅樹は、舞の顔色が悪いと感じた。
「すごく……違和感があるの。雅樹は平気なの?」
「そりゃもちろん」
「そうじゃなくて、碧き泉にいたときの話」
「あ、そういうことか。要は慣れだ」
「慣れ……」
 慣れる前にダウンしそうな気分だった。
 雅樹に連れられて畑の間の道を進むと、ちょうど村の中央に大きな井戸があった。中には窮屈な螺旋階段がついていて、雅樹は体を縮めながら降りていく。
 階段の1段目に足を乗せた瞬間、舞は吐き気を催した。
「うっ」
「大丈夫か?」
「……」
 舞は何も言わず、雅樹の方へと降りていく。顔が苦痛に歪んでいたが、それ以上に、絶対に行くという意志を感じさせて、雅樹はあきらめてそのまま進んでいった。
 降りる度に強くなる……と思われた違和感は、むしろ楽なものへと変わっていった。
「……そんな簡単に慣れちゃったのかな……」
 顔が少し緩んでそんなことを考えつつ降りていくと、黄色い光が見えた。
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