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風雅、舞い - 第八章 朱と碧 (4)
 再び地上に出た時も、舞の違和感はほぼ取り除かれていた。
「あたし、もう慣れちゃったのかな」
「ん?」
「あ、ううん、なんでもない。ここって……よく人がいるよね」
「おい、ヒデェこと言うな」
「あっごめん!」
 ごまかしついでに言った言葉だったが、雅樹はそのまま答えていく。
「俺がいたからな」
「何よそれ」
「いや、そういう意味じゃなくてな……おまえ、赤葉様から俺の素性とか訊くつもりだろ」
「えっ?」
 先ほどの赤葉への言葉にその意志は含まれていなかったが、雅樹に言われてそれもありだなと感じた。
「ならいっか。俺が泉の能力を得たのはおまえが生まれるずっと前だった。そのころは宗教的なもんもあったから信じなかった人間はいなかったし、それ以降は、俺が実際に能力を使うところを見れば」
「泉の能力を信じざるを得ない」
「ここにいるのはここで生まれた人間だけだから、むしろ、生まれた時からあるものだから気にならない、というところか」
 確かに、自分の母や兄は多少の能力は使えるけど、それはむしろ手品のようなものに似ていた気がする。だから、他の人と違う、それだけが気になっていた。
「だがな、ここだって、入る人間はいないが、出て行く人間はいる」
 誰もいなくなった、泉だけが残る。
「ここは特殊だな。他の泉がどうなってるかは想像もできないが」
「それを見つけるのが、次の仕事ってわけね」
「だな。あー、また碧き泉に戻んのかよ」
「……っていうか、嫌み言う前に、あんたはわかってなかったんでしょ?」
「う”……おう、ここだここだ」
 ごまかしついでに雅樹が入っていったのは、漆喰造りの、村の中では比較的大きな家だった。
「ただいまぁ!」
「あら朴さん、久しぶり」
 長い三つ編みを揺らして女性が立ち上がる。30過ぎだろうか、落ち着いた雰囲気を持っている。
「あいつは?」
「達也かい? ……降りて、いったよ」
「そっか」
 悲しそうな瞳を見て、その達也という人間がこの村を去ったことに気づく。
 こうして、泉は枯れていくのかもしれない。
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