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風雅、舞い - 第八章 朱と碧 (6)
「熱く、ない」
 朱き泉の中央を走る橋梁の上を、舞はゆっくりと歩いていく。周りから立ち上る炎は、舞を完全に覆い尽くしても、焼き尽くすことはなかった。
「これ、偽物の炎なんですか?」
「偽物といえば偽物。しかし、朱き泉の者として言うならば、そなたの知る炎は、ここにある炎が意味を持って存在した形である、と表現することができる」
「つまり、この炎こそが本来の姿で、普通の火とかっていうのは、ここのが具現化したもの、ってこと?」
「そういうことだな」
 舞が進んだ先、直径2メートルほどの床に赤葉が立っていた。
「結白殿が熱さを感じない理由は、ふたつある。ひとつは、私がそなたを受け入れているため」
「受け入れてる?」
「無効化していると言ってもいい。もしここに全く関係のない者が訪れたなら、その者は焼き尽くされるであろう」
 今ここに赤葉様がいて、そうしてくださってるからこそ、燃えない。
 その事実は、恐怖を少しばかり感じさせた。少しだったのは……やっぱり赤葉様の人徳かもしれない。
「もうひとつは、泉には本来、違いはないという事実」
「違いがない??」
 それには同意しかねた。自分のいた碧き泉と、この朱き泉とはまったく異なっていた。
「碧き泉には、術者がおらんようだな」
「術者? 簡単な能力ならみんな使えるけど」
「それは、血の濃さに頼ているだけであろう。術とは本来、修練によって身に着けられるものであり、その能力に長けた者が術者となる」
「魔法使い、ってことかな……」
 自分や雅樹が泉の能力に頼り、またリシュネ達がヒトではない存在ということを知っているから、普通の人間がそういった能力を使えることを、にわかには信じられないでいた。
「術者であれば、泉の本質を捉えることができる。泉とは、異能の能力を行使するために必要な大気を発する場だということを」
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