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風雅、舞い - 第八章 朱と碧 (7)
「大気? 空気ってこと?」
「そうだ。本来、何も存在しない空間に火が起こるはずがない。つまり、この大気にはそれを起こす何かが存在するということじゃ。結白殿は、大気の濃さを感じないようだが」
 赤葉はゆっくりと両腕を上げる。
「場所によってその濃度は全く異なる。特に、地上の都心部であれば、空気は造られたものであるため、濃度は下がる」
「つまり、能力や威力が下がるということですか?」
「そうだ」
 能力の出方にむらがあるとは感じていたが、それは自分の体調や慣れのせいだと思っていたから、舞にとっては意外だった。
「大気の濃度、そして自らの泉に近い大気を感じ取ることができれば」
「戦いを有利に進めることができる」
「……そういうことじゃな」
 赤葉の言い淀みを、舞は感じた。
「少なくとも、この異変を乗り越えるためには、戦わねばならないと私は考えています」
「それは認めよう。だがな」
 一区切り置いてから、全く違う言葉を言う。
「結白殿、この泉を継いで下さらんか」
「へっ!?」
 間抜けな答え方をしてしまったが、この際気にならない。
「ちょちょちょちょっと待ってください!」
「もちろん、そなたが碧き泉を継ぐことになるであろうし、この泉は朴が継ぐべきであろう。むしろ、結白殿に頼みたいことは別にある」
 赤葉は天井を見上げた。
「泉、その全てを任せたいのだ。そなたは利発だ。真面目でもある。かといって堅さがあるわけでもない」
 今度は下を向き、ため息をついた。
「朴はな……特殊な存在故に、恐らく継ぐことは不可能だろう。この身もそう長くはない。考えておいてはくれまいか?」
「……急ぐ、必要はないと思います。少なくとも、他の泉のことが判るまでは」
「うむ、そうじゃな」
 しかし、舞の表情は、あからさまに曇っていた。
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