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風雅、舞い - 第八章 朱と碧 (8)
「もうひとつ、重要な事を教えておかねばならん」
 曇っていた顔を上げさせて、赤葉は話を続けた。
「それはこの下、泉の底についてのことだ」
「これ、底なんてあるんですか?」
「やはり、ないと?」
「ここではどうするかわからないですけど……」
 完全な闇。不安を駆り立てる音。着くことのない足。落ちていく体。
「……私が泉の能力を受け継いだとき、私は泉のずっとずっと下に落ちていったんです。母も、兄も、辿り着けなかったずっとずっと深い泉の底の底……」
 その時の事を鮮明に思い出しても、恐怖には継ながらない。
「気付いたら、私は泉の上に浮かんでた。でも、下に沈んでいたのは確かだし、底に着く前に、何かあったと思う。能力を受け継ぐ儀式みたいなものが」
「恐らく、底はない」
 ふたりは炎が盛る泉の底を見ようとする。
「口伝であるから確かとは言えぬが、泉とは龍の口だと伝え聞いたことがある」
「龍の口??」
 龍、という言葉は舞にとって突飛すぎた。
「風水に龍脈という概念が存在する。大地を巡る気の流れを龍脈と呼び、その龍脈が途切れ大地に放たれた部位を龍穴と呼ぶ」
「その龍穴が、泉ということですか?」
「尤も、その全てが当てはまるとは考えてはおらん。大地に龍が埋まっているはずなぞないしな」
 赤葉は少し笑みを浮かべて、舞もつられて笑った。
「だが……私は感じ取る事ができる。この泉を通して、四方八方に伸びる何かを。そしてその先にある、力の澱みを」
「それが、他の泉」
「恐らく。まず結白殿に習得していただかなければならない事は、この泉の大気を感じ、龍脈を感じ取ること、となる」
 それが、他の泉を見つけ出す近道になる。
「わかりました。よろしくお願いします」
 舞は、礼をした。
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