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風雅、舞い - 第九章 四人 (2)
 呆然としてはいたが、このようなことはもう何度となく体験していた。隠れている能力を引き出す力。鷹人との修練でこの体験を経る度に、技術が向上している。
「だが」
 雅樹は剣を構え直す。
「今は、稽古の時間じゃないだろう」
 鷹人の表情が引き締まる。
「気が変わった。正直、もっと腕が立っていれば、あるいはと思っていたんだが……」
「……!?」
 鷹人が滑るように進んでくる。肩で目付をしていた雅樹はすぐ反応できない。そして、恐怖で反射的に振り降ろした刀は空を切り、音もなく鷹人が脇に回る。
「ちっ」
 返す刀で胴を薙ぎに行く。鷹人は刀を振り降ろして受けに行く。
「うぉおおおっ!」
 渾身の力を振り絞って剣を斬り上げる。完全に踏み込み、両足が大地に突き刺さり、体を伸ばす力を使っての一撃は、素に近い立ち姿で、しかも回り込んだばかりの鷹人に止められるはずがない。ここで押し上げて体制を立て直す。
 ギッ。
 手首に衝撃が疾る。微動だにしていない鷹人とその刀は、まるで鋼鉄の柱のように硬く、それを叩いた雅樹の手首に全ての力が集中した。人のそれの二倍はあるかという太さでも、自分の力と相手の力の全てを受け入れることはできなかった。
 痺れて、手を離し、刀が地面に刺さる。
 咄嗟に後ろへと下がり距離を取る。
 はずだったが、それ以上の距離を瞬時に踏み込んで、鷹人の切っ先が雅樹の額に触れようとしていた。
「……」
「……つまり、こういうことだ」
 鷹人はため息をひとつついて、刀を鞘にしまった。
「……まさか、ここまで差がついていたとはなぁ……なんだ、今の」
「楠家に伝わるものだから、これは教えられないな」
「じゃあ俺は絶対鷹人に勝てねぇってことか?」
「もうろくして忘れたら勝てるかもな」
 はは、とふたりは笑った。
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