「早い、な……」
朱き泉の中央で、白葉は多くの命が消えたことを感じていた。愚痴ているように見えて、その表情は満足そのものだった。
陽が昇らないうちにたどり着いてくれたからこその奇策だったが、それでも村人全員が一致団結して動いたからこその結果に代わりはない。
「これがあのふたりの人徳、そして力か」
腰を据え、両手を広げて、炎にかざせば、この森のことはだいたい感じ取れる。だから、今は幽閉されているとしても、さして不自由は感じていなかった。
それに、少し待てば赤葉が来るだろう、そう期待した。
「赤葉……」
他の三人は来まい。そう確信していた。村を護るためとはいえ、躊躇なく鉄槌を振り降ろしたことに、白葉は満足してはいた。だからこそ、その中に自分の孫が含まれていないことを、不満に感じる。
「……?」
村に気配を感じた。
嫌な予感がした。
同時に、衝撃が床を揺らす。閉ざされた岩戸が砕け、白葉のいる泉に岩埃が流れ込む。
「何者だ!!」
白葉は立ち上がり、構える。
「なんだ、婆ひとりかよ」
現れた男は、白葉を見るなり下卑た笑いを見せた。短髪痩身、黒のシャツを着ている。
「何者かと訊いている」
「俺は無駄なことはしない主義なんだ」
足を上げ、踏み抜く。床がささくれ立ちそれが波打ち疾り、白葉を飲み込んだ。
「ガッ!?」
白葉の体は人の形をなさなくなる。がれきの中から見える白葉の口が、何かをつぶやく。
「無駄無駄。なんか雰囲気違うけど、ここだって泉なんだろ? 使わせてもらうぜ」
ひび割れた泉の中央で、男は手を広げ、炎に掲げた。
「さぁてめぇら、休むにはまだ早いぜ?」
朱き泉の中央で、白葉は多くの命が消えたことを感じていた。愚痴ているように見えて、その表情は満足そのものだった。
陽が昇らないうちにたどり着いてくれたからこその奇策だったが、それでも村人全員が一致団結して動いたからこその結果に代わりはない。
「これがあのふたりの人徳、そして力か」
腰を据え、両手を広げて、炎にかざせば、この森のことはだいたい感じ取れる。だから、今は幽閉されているとしても、さして不自由は感じていなかった。
それに、少し待てば赤葉が来るだろう、そう期待した。
「赤葉……」
他の三人は来まい。そう確信していた。村を護るためとはいえ、躊躇なく鉄槌を振り降ろしたことに、白葉は満足してはいた。だからこそ、その中に自分の孫が含まれていないことを、不満に感じる。
「……?」
村に気配を感じた。
嫌な予感がした。
同時に、衝撃が床を揺らす。閉ざされた岩戸が砕け、白葉のいる泉に岩埃が流れ込む。
「何者だ!!」
白葉は立ち上がり、構える。
「なんだ、婆ひとりかよ」
現れた男は、白葉を見るなり下卑た笑いを見せた。短髪痩身、黒のシャツを着ている。
「何者かと訊いている」
「俺は無駄なことはしない主義なんだ」
足を上げ、踏み抜く。床がささくれ立ちそれが波打ち疾り、白葉を飲み込んだ。
「ガッ!?」
白葉の体は人の形をなさなくなる。がれきの中から見える白葉の口が、何かをつぶやく。
「無駄無駄。なんか雰囲気違うけど、ここだって泉なんだろ? 使わせてもらうぜ」
ひび割れた泉の中央で、男は手を広げ、炎に掲げた。
「さぁてめぇら、休むにはまだ早いぜ?」