KAB-studio > 風雅、舞い > 第九章 四人 (16)
風雅、舞い - 第九章 四人 (16)
「え、あ、あ」
「足を止めるなと、言っただろう!」
 血反吐を吐いて、うがいのような声で、鷹人は、もう一度言った。
「あ……」
「穂香と赤葉を連れて泉に逃げろ。あそこなら何とか……」
 体をよろけさせつつ、鷹人を突き飛ばす。その先に、穂香がいる。
「雅樹、穂香を頼むぞ……」
 そう言って、視線の先にいる穂香を見る。笑みを浮かべてから、背を向け、つぶやき始める。
『邪悪な心の猛きうねりは空を乱して光を奪い、悪しき意志は闇の煙に熱き力を与えたもう』
「!!」
 邪法を聞いて、雅樹は立ち止まろうとした。だが、目の前から走ってくる穂香を見て、心変わりをした。鷹人しか見えていない穂香を雅樹が抱き止める。
「ど、どけっ!!」
「またすまねぇ!!」
 雅樹は穂香を抱え上げ、走る。
「赤葉、赤葉!!」
「こっち!!」
 森の端、村への道に赤葉がいる。指を差し示して、その森の中へと入っていく。
「くそっ、くそっくそっくそっ!!」
 穂香が嗚咽をして雅樹の背中を叩いた。その力は、弱い。赤葉も、雅樹も、穂香も、そうするしかないことを解っていた。
『光は無なり、闇こそ光なり、光は炎と成りて、全てを無へと還さん』
 もう数十発の弾丸が体を貫いていた。
「穂香を、頼むぞ……」
 体が、崩れる。
 野原が一瞬にして黒い炎に包まれる。
 炎は一瞬にして駆け抜け、後には草一つ死体一つ残らなかった。
 検索