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風雅、舞い - 第九章 四人 (20)
 何度試しても、慣れることのない、気持ちの悪さ。
 深い深い泉のさらにその底へと、ただひたすら沈んでいく。
 たとえようのない気分の悪さ。圧迫感、緊張感、不安、恐怖、全てが精神を蝕んでいく。ただひたすらそこから逃れたい、そう思わせる感覚。
 だが。
 普段なら耐えきれるはずのないその限界すらも、今なら超えることができる。でも、それは単に……。
『死を、選ぶつもりか』
『死ぬつもりはありません。私に、洗礼を授けてください』
『ならん。おまえには適正がない。適正のないものに力は与えられん』
『俺と穂香のふたりでひとつってのはどうだ?』
『雅樹か……赤葉は?』
『……落ちる時に捕まっちまったらしい……だから、俺は絶対に洗礼を受けなきゃいけないんだ』
『おまえも不可能だ。適正がない』
『だからふたり一組で』
『適正とはそういうものではない。力を受け入れられるか、死ぬか、それだけだ』
『死んでもいいから!』
『我が望まん』
『……』
『でも……どうしても、どうしても……お願いします!!』
『お願いだ!! 洗礼を!! 力を!!』
『……ならば、おまえ達二人を人ならざる者とする』
『ひとならざる……?』
『適正に耐えうる状態にする。女は精神体となり、男を宿主として永遠に生き続ける。男には不老不死を与え、意識状態を覚醒に固定する。この二つをもって、力の受け皿となす』
『どういう……ことだ?』
『つまり、あたしは体を失って、あんたと一緒にいるって事』
『……』
『……あたしだって不本意よ……。あんたは、ずっと起きた状態で、眠ることなく永遠に生き続けるってことね』
『……それって……』
『たぶん最悪ね』
『でも』
『赤葉、助けなきゃね』
『いいのか?』
『……承諾した』
『……すまない……承諾した』
『では、二人に洗礼を行う』
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