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風雅、舞い - 第九章 四人 (21)
「離して、離して!!」
 捕まれた腕を振り解こうと赤葉は暴れる。そのたびに激痛が疾る。
「ったく」
 男は赤葉の足先を踏み抜き、声にならない悲鳴が泉の中に響く。
「おまえは連れてかないと、金がもらえないんだ」
「金……?」
「そ、カネ。そういう契約になってるからな。ま、もらうもんもらったらとんずらすっけど。そだな、おまえ、ついてくるか?」
「え?」
「本営は、俺達泉の能力を持つ者を束ねて特攻部隊作る気らしいぜ。つまり死ねってことだ」
「嘘……」
「だろ、馬鹿げてるだろ? だから金もらったら一緒に俺の泉行こうな。俺んとこの泉、もう誰もいないんだ。後継者が必要だからな」
「!!」
 胸を触る手を振り解く。
「なんだよ、あいつじゃなきゃ駄目か?」
 男の卑猥な笑みに赤葉は抵抗するが、かえって手と足が痛くなるばかりだった。
「そういう性格、嫌いじゃないぜ。俺は殺すのは好きだが犯すのは嫌いなんだ、じっくり待つさ」
 そう言うとひょいと赤葉を抱え上げ、泉に背を向ける。男の肩から見下ろす先に、白葉の顔が見える。そして、泉を見る。
「雅樹……穂香……鷹人……」
 涙が、止まらない。
 止まらなかった涙が、止まる。
「!?」
 咄嗟に赤葉を降ろし男は振り向く。泉から、ずぶぬれの男が上がる。
「雅樹!!」
 満面の笑みの赤葉、睨み付ける男。
 それに応える雅樹の目は、真円を描いていた。
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