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風雅、舞い - 第九章 四人 (23)
 炎が、止んだ。
 頭を抱えて震えていた赤葉は、腕の間から泉の奥を見ようとする。が、砂埃ばかりで何も見えない。
「ひっ」
 その中から出てくる人影は、雅樹。左手には先ほどの男が血を垂れ流したまま掴まれている。
 が、それでも震えは止まらない。
「まさ……き……」
 見開かれた眼が赤葉を捉えている。標的として認識している眼。猛禽の眼。
 右腕が上がる。
『あっ赤き炎よ!!』
 咄嗟に放った炎が雅樹に直撃する。雅樹の体が燃え上がる。
「あ……あ……ご、ごめんなさ」
 降ろさなかった右手から炎が舞った。
 
 
 
 
 気が付いたとき、赤葉はまだそこにいた。
 泉の入り口。先には瓦解した朱き泉。もう、祖母の遺体は見えない。
 自分の体を確認する。少しのやけどと、男にされた肩と足の他に痛みはない。
 立ち上がり、泉を出る。
 中にも外にも、雅樹はいなかった。
「……」
 ただただ、涙だけが止まらなかった。

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