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風雅、舞い - 第十章 剣と魔法 (11)
 昼を回っているにも関わらずわずかしか陽の光が差し込まない森の中を、跳ねるようにしてリシュネは駆けていく。
 それは、道というものではないのだが、数メートルの段差や川のような小川が乱雑に並び、その障害物競走をリシュネは平然とこなしているから、まるで普通の道のように見えてしまう。だが決して、雅樹も舞も通らない道。
「ん」
 地磁気を読み方向を修正する。慣れてきたこともあり読む間隔が30分間隔になっていたが、そのぶん、想像以上に方向がずれていた。
 無理な方向転換はしない。ゆっくりと、目の前の巨木の脇を抜けるようにしてカーブする。
 リシュネは足下を見る。靴は、まだ保っていた。
 リシュネの性能に靴が追いついていない。新品の、それでも特注の靴は、目に見えて疲弊しており、帰り路の心配をした。
 跳んで行ける距離じゃないし……裸足……?
 思いついて、少し強めに跳ねる。枝に触れるかどうかという高さで姿勢を崩しつつ靴を脱ぐ。短い金髪が逆立ち、一組の靴を左手に抱え、自由落下に任せて着地し跳ねる瞬間。
「あ」
 リシュネの足は、靴よりもはるかに丈夫だ。痛くなることも、傷つくこともない。が、そのぶん、グリップ力がなかった。
 つるっ、と両足が上を向き、体を制御する間もなく後頭部を岩にぶつけ、朦朧としつつそのまま地面を転がった。
 大きく土しぶきが立ち登り、音を立てて降り注ぐ。泥まみれで逆さになったリシュネは、困ったように顔を赤くした。
 視線の先、木の上、ばつの悪そうな、そして笑いをこらえた舞の顔があった。
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