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風雅、舞い - 第十章 剣と魔法 (20)
 古風な板敷きの間に並べられた色とりどりの薬。錠剤、粉薬、アンプルと、様々な薬が並んでいた。
 袋を破って取り出した注射器を、慣れた手つきでアンプルに差す。その手並みを舞はじっと見つめる。
「……何?」
「……痛そうだな、と思って」
「APだから、痛覚はカットできるから」
「あ、うん……」
 また、便利だなと思ってしまった自分を恥じる。こんな薬を数時間おきに打たなきゃいけない体のどこが便利なのか。
「ただ、研究は進んでるから、近い将来こういうメンテナンスはしなくて済むようになるって、先生が言ってた」
「薬なしで普通に生活できる、ってこと?」
「それが本来の姿だから」
 AP本来の姿。
 一歩進んだ、普通のひと。
「リシュネは、なんでAPに?」
 訊いて、しまった、と思った。
「……病気」
「びょう……き?」
「HIV。染された」
 無意識に手が下腹部をさする。
「APになれば病気が治った。それだけ」
「……ごめん」
「ううん」
 リシュネは、微笑んでいた。
 こんなに自然に言えるとは、思ってもみなかったから。
「それに……さっきも言ったけど、私は自分の意志でAPになったし、APになって良かったと思ってる」
「うん、それは判る」
 その言葉に、リシュネはきょとんとした。
「だって、リシュネって、迷いがないっていうか、そういう感じなんだもの」
「……」
 そうか。そうなのかも、しれない。
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