KAB-studio > 風雅、舞い > 第十一章 AP (12)
風雅、舞い - 第十一章 AP (12)
「うわ、これはちょっと……」
 更衣室。特殊素材でできたスーツを見る。ゴムのような質感、水着のような感覚。
「体のライン、出ちゃいますよね」
「くっきりはっきりとね」
 智子も一度着たことがあったが、その姿はとても口にはできない。
「リシュネ達は気にしないけど」
「リシュネは――」
 言いかけた言葉を飲み込む。
「……リシュネとならいいけど、今日は木村君とか見てるし……これはやめておきます」
「じゃあこれ」
 智子が黒いトレーニングウェアを渡す。
「うん、これなら水に掛かっても透けないし、いいかな」
 見切りを付けて服を脱ぐ舞。智子は部屋を出ようとして、足を止める。
「……その傷は?」
 体全体を覆う無数の傷。それは薄く消えかかっているとはいえ、数は尋常ではない。
「あ、これですか? 練習でついちゃうんです。たとえば……」
 シャワー室へと歩き、おもむろに栓を開く。頭上から吹き出すはずの水は螺旋を描いて舞の体を縄のように取り巻いていく。
「碧き泉の能力……」
「こうやって、体のすぐそばを高速で走らせるんです」
 高周波。
 ウィウィウィウィという空気を震わす音と共に、水帯が皮膚すれすれを走る。まるで幅広の布が舞の体を包みつつ巡るように、水の帯が駆けめぐっていく。
「私が動かしても」
 手を動かすとそれに水が追従する。
「ちゃんとそれに合わせて動くように、っていう練習をするんですけど」
 その右腕をよけるように水が走る。露わになった右腕には、無数の赤い線、滴る血。
「あ……」
「でもこれ、簡単に直せるんです。細胞を活発にさせるっていう感じなんですけど」
 左手の指で傷をなぞると、その傷が治る。
「治癒能力……」
「全部消すのも面倒だし、私が下手な証だから、残しとこうと思って」
 栓を閉めると水の流れは途絶え、水の帯が排水溝へと走っていく。
「それが、その傷の原因というわけね……」
 智子は、その複雑な表情に、感情の高ぶりを抑え込むことで精一杯だった。
 検索