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風雅、舞い - 第十一章 AP (14)
 一歩後ろに下がって、観戦スタイルを観察する。その姿は、三者三様。
 美咲は冷静に分析しつつも、自らの子の成長ぶりに少なからず驚いている。
 俊雄は手を握り、ただひたすら恐怖と不安に耐え、舞の心配をし続けている。
 恭子は両腕を振り上げ、届かんばかりの歓声を大声で張り上げていた。
 智子はふたりの戦いそのものには興味がない。むしろ、各種センサーが捉えている観測データの方が興味深かった。モニターに表示される無数の折れ線グラフ。舞と少年のデータは似た箇所もあれば全く異なる箇所もある。
 漠然と、少年達APと、泉の能力者は同じ性質を持つのでは、というイメージを描いていた。
 しかし、客観的な記録はその多くを否定する。
 科学者としての智子は、APの戦闘能力やその結果には興味がない。APの組成、性質、成長過程に興味があった。
 だから、模擬戦闘そのものに興味はない。
「よしっ!!」
 恭子がガッツポーズを取る。水槍が少年に当たり、水飛沫が飛ぶ。恭子が喜ぶほどのダメージは負っていないが、少年が距離を詰めることに苦労しているようには見えた。
 けたたましいブザー。
「はい、1分間休憩、その後最終ラウンドです」
『はい』
 元気な舞の声が白い空間に反響する。壁の端まで来て腰を下ろす舞に対して、少年は少し壁寄りに移動しただけでそのまま立っていた。
「舞さん、疲れてるみたいですね」
「それは大丈夫だと思うわ、さっきも試合前には回復していた」
 舞から目を離さずに美咲が答える。
「肉体的なダメージを負っていないとはいえ、なぜあれほどの回復力があるのでしょうか」
「恐らく泉そのものの影響なんだと思うけど……」
 それでも、美咲自身が体験したことのないことは、説明できない。
 元気よく舞が立ち上がり、少年の方へと歩いていく。手に拳を打ち当てて、
『よっしゃー!』
 などという元気な声が上がる。
「……」
 その舞へと向ける少年の視線は、殺意を持っていた。
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