KAB-studio > 風雅、舞い > 第十二章 超越する存在 (9)
風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (9)
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃって」
 ビルの外の喫茶店で、智子が言う。
「穂香さんに見られてるとかで……左さんが大丈夫って言うまで出られなくて」
「あ、そういえばそうでしたね、舞さんにばれてたかもしれないんだ……」
 そう答えたのは、俊雄。高校の制服姿だった。
「じゃ、手短に済ませるわね。とりあえず今日の段階ではまだ聞かないから。本当にその気があるんならこの日に会社にきて」
 智子が数枚の書面と一緒にメモを渡す。
「これは……?」
「来週の月曜に国外で演習を行うの。もし本気ならその時に来てもらって、どういう世界なのか見てもらうから」
「どういう……世界?」
「そ」
 その目は、睨むような目。
「何度も言うけど、私は絶対に勧めないから」
「……DNA検査の結果、出ました?」
 忠告を無視されて、智子は溜息をつく。
「まだよ。APってまだ実験段階だから、結果が出るまで時間が掛かるの。少年とリシュネの場合は左さんが連れてきた子だし」
「左さんが?」
「あの人は本当の意味で神様みたいな人だもの。こんなこと言っちゃアレだけど、気味悪いくらい」
「はぁ」
「……その素直さ、本当に命取りになると思うんだけど」
「……素直だから、舞さんを守れるって思います」
「守れる、ねぇ」
 現実主義者の智子には、その言葉は安っぽいものに聞こえた。
「と」
 携帯が震えている。
「そろそろ時間みたい。旅行の概要はその書類に書いてあるから」
 智子が立ち上がり、レジへと向かう。
「あ……」
「いいから気にしないで。最後に何か質問は?」
「あ……えっと、僕、パスポートとか持ってないんですけど」
「あーそれは要らないから。自慢じゃないけど、私達違法組織よ?」
 検索