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風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (15)
「真空……」
 リシュネを、真空が包む。水槍はその空間に突き刺さった瞬間霧散し、水分はその外へ追いやられる。
 舞はその中のリシュネを視認する。肌が切り裂け、その表情は鬼の形相。真空をAPとしての身体能力だけで乗り切ろうとしていた。
「……なら貫くだけ!!」
 外を巡る水分を一箇所に集中させようとしたその時、リシュネは急降下する。
「っ!」
 そしてそれは木々の中に隠れてしまう。真空に巻き込まれた森が、何かに租借されるように音を立てて瓦解していく。そして。
「……」
 場所が、分からない。
 真空となっている空間の大きさが、とてつもなく広くなっている。
 水の力で形を読むが、その形もすでに球形ではなくなっている。この中のどこにリシュネがいるのか、把握することは不可能だった。
 どうする?
 無理矢理にでも攻撃して崩す?
 視認できる距離まで近づく?
 守りに入って時間を稼ぐ?
 あの状態はダメージが大きいはず、なら持久戦に持ち込んだ方がいい。
 水榴を身にまとい、真空となっている領域を把握しつつ後退する。
「!!」
 突然の衝撃波。
 地を奔る2本の縦波。視認を自覚した直後は既に目の前、両手をかざし全ての水榴で楯を作り受け止める。
 声にならない声と共に舞の体が弾け飛ぶ。木々の中を鳥のように舞う中で、水から得た情報は、おおよその射撃位置を把握していた。
「発破」
 真空空間の中央、その地面が突然吹き上がり、形を崩す。宙に吹き上げられたリシュネを、水の槍は射抜いた。
 ホーンが鳴り、勝敗が決したことを告げた。
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