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風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (19)
「お前は、人を殺したことがあるか」
「……」
 雅樹が一歩進む。
 少年が一歩下がる。
「質問を変えよう」
 雅樹が嫌らしく笑う。
「お前は、自分の膀胱を見たことがあるか?」
「?……」
「膀胱だ、膀胱」
 雅樹が自分の下腹部を指さす。
「お前、APなんだろ? 死なないんだろ? なら、ナイフで腹かっさばいて、内臓くらい見たことあるだろ」
「……」
 ない。
 考えたことも、ない。
 考えることすら、できない。
「な、何を言って……」
「ある日なー、食いもんがなくて、すんげー腹減ってて、そしたら包丁があって、思い付いちまったんだよ」
「……」
「さくっと開いてな、血溜りの中膜割いて、引き出すんだ。釣られてアレとかも引っ込むんだぜ?」
「……」
「それをスライスするんだ。あぶると結構いけるんだよ。焼酎と合うんだ」
「……ちっ、黙れよ!」
 少年は下がるのを止めて、止まり、雅樹へと跳ぶ。
「っ」
 その足を、止める。
 刀が、目に入った。
 ただそれだけのこと。
 それが。
 少年に、想像を、させて、しまい、
「そうだ、そこで待っていろ。今お前にも食わせてやるから」
「っっ」
 少年が一歩下がる。
「白炎」
 白い風が少年を包み、宙に浮いたと思った瞬間。
「え」
 その腹部を、刀が、斬り刺していた。
「ごか〜いちょ〜」
 雅樹は、舌なめずりをした。
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