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風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (23)
「……」
 舞は、ただ呆然と待っていた。
「……何を?」
 助けを?
 ホーンを?
 雅樹を?
 死を?
「死――」
 背筋が、凍る、記憶。
 深い深い、泉の底へと落ちていった、あの瞬間。
 あのとき、自分は死んだ。
 何も見えず、何も聞こえず、息さえもできず、喉を掻きむしり、肺を掻きむしり、水が喉を絞め殺した瞬間
『お前に、力を授ける』
 そう、聞こえた気がした。
 それが、死刑宣告だった。
 死と引き替えに焼き付けられた、碧き泉の力。
 私は、二度死んだ。二度、死んだ。
 ……本当に、二度、死んだ?
 掌を、見る。
 私は、洗礼を受けたことで、人生は最悪になるんだと思ってた。
 でも、違った。
 確かに、嫌なことはいっぱいあった。
 今だってそうだ。
 でも、いいこともいっぱいあった。
 この力で、切り開いた道だった。
 私は、この力、嫌いじゃない。
 むしろ、自分の半身だと思っている。
 冷たい冷たい、泉の底へと落ちていく感覚。
 その感覚が、頭を冷やした。
「――なんだ」
 ただ、周りを炎が包んでいるだけ。
「なら、消せばいい」
 舞は、手を上にかざした。
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