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風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (25)
「どうしよう……」
 雅樹の位置は把握できていた。でも、遠距離戦では分が悪いことは分かっていた。舞は雅樹の攻撃を把握できないが、雅樹は舞の攻撃を知り躱すことができる。この距離で水槍を撃っても躱されるし、当たったとしても大したダメージにはならない。
 なら。
「接近戦で、決着を――」
 雅樹の言葉を思い出す。
 お前は、接近戦には向いていない。
 分かっている。
 絶対的な力量の差は感じている。
「……」
 考えている間にも、灰色の炎が舞を包んでいく。
「とりあえず」
 舞は両腕を広げる。そのゆびさきが触れるか触れないかという半径の水球が生まれ、舞を包み込む。
 灰色の炎が、水球の表面をちりちりと焦がす。元々「存在し得ない炎」である灰色の炎が、水球を形作る舞の力と衝突している。
「!!」
 雅樹の周りの水蒸気が、飛ぶ。
 舞の把握できない空間が、生まれた。
 できる? ううん、やってみせる!!
 閃光の如く貫く火線が舞の水球に直撃し、水球はそれを弾く。
「後ろ!!」
 舞は振り向きざま手を振り、それが水球の表面を尖らせ背後に飛び掛かる雅樹を薙ぐ。
 一瞬。
 雅樹と舞の目が合う。
 雅樹は、悔やむような目で。
「ちっ」
 舌打ちと共に雅樹の左手が赤く煌めき、爆音と共に尖った水球の表面を爆散させる。水球の形が崩れ、舞が水球の外へと放り出される。
「舞っ!」
 周りには、死をもたらす灰色の炎。
「……っ」
 死を覚悟する、舞。
 手を伸ばす、雅樹。
 俺には、殺せない!!
 その伸ばした手が、消える。
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