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風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (29)
「……ホーンが鳴らない」
 反対の端で、少年は両腕を振り降ろした状態のまま、ホーンが鳴るのを待っていた。
 だが、ホーンは鳴らない。
「躱された? 防がれた?」
 躱されたはずは、ない。
 でも、防がれた可能性はある。あまりに広範囲にしすぎて、威力が下がっていたはずだ。
「……」
 状況がわからない。
 以前は、それでも問題ないと考えていた。
 でも、今は違う。
 この肉体を易々と切り裂ける者がいる。
「弾丸だって通さないんだけどな……」
 自分の体を見る。自信を持っていたこのAPの体。でもその体は、特別ではなかった。
 じゃあ。
 なんで自分はAPなんだ?
 何のためにAPになったんだ!?
「……」
 決まってる。
 生きるためだ。
 母子感染の危険性を避け、確実に産まれてくるためには、AP化は必要不可欠な処置だった。
 父さんも母さんも、だからこそ決断したんだから。
「っ!」
 突然、木々の中から舞が飛び掛かる。
 少年は咄嗟に下がるが、舞は岩を蹴り追い付く。
「くそっ!!」
 宙で体を起こして、近づく舞に回し蹴りを放つ。
 舞はそれを躱さない。
 蹴りが、舞の側頭部を蹴り飛ばす。
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