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風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (32)
「な……」
 雅樹は、目を丸くした。
「え……」
 舞は、幻を見ているようだった。
「彼女……が……」
 智子の表情は、怯えきっていた。
「そういうことだったのね」
 リシュネは立ち上がり、睨み付ける。
「……?」
 少年は、初めて見る何かを、見上げていた。
「猫が……」
 俊雄は、ただ驚くだけだった。
 洋一の足下にいた猫、おはるさんが、光と共に女の姿へと変わる。白と青を基調としたドレス、肩は大きく膨らみ、足首まで隠す巨大なスカートはフリルが付いている。背は180を超え、さらにその高さを増すように頭の後ろでまとめた銀髪のポニーテールが風になびく。
 光が消え、目が開く。斬るような瞳が、雅樹を射る。ナイフのような銀色の前髪が、その瞳を見え隠れさせる。
 その艶っぽい唇が、嫌らしく笑う。
「初めまして、神薙 遥(かんなぎはるか)よ」
 その声音は、女性の声、だが低音の効いた、品の良い木管楽器のように。
「世間では、死神って、呼ばれてる」
 雅樹に正対し、見下すように笑む。
 それに反応して、雅樹が刀を強く握る。鞘が、割れる。
「ねぇ」
 そんなことには意を介さず、洋一の方へと向く。
「どうすればいいの?」
「殺せ」
 その洋一の一言に、全員が言葉を失う。
 それはあり得ないこと。
 だが、それは確信した上での発言。
「でも、殺すことができるなら、殺すな」
「何それ、難しいこと言うな」
 目の端で、雅樹を見る。
「殺しちゃうかもしれないけどそれでもいい?」
「ま、いっか〜」
 人事のように言い放つ洋一。
「おまえら」
 笑みひとつ、見せず。
「人を怒らせるの、うめぇな」
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