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風雅、舞い - 第十二章 超越する存在 (38)
「……さっき、穂香がお前を見失った。あれは、なんだ」
「ああ、彼女のこと?」
 遥の視線が、虚空へと向く。
「え……」
「お前、まさか……」
「嘘……」
 誰もが、信じられないものを見ていた。
 遥が、何もない方を向く。その意味すること。
「別に、見えているわけじゃないの。でもね」
 その手を、雅樹のうなじに添えるようにして。
「視線は感じるの、憎悪に満ちあふれた視線が」
「視線だと?」
「そ。だからね、その視線からちょっと体を外したの。見えてる範囲が広くても、注意を向けられる場所は狭いものなのよ、そこからずれれば見えていないのも同じ」
「……それがお前の能力ってことか」
「あなた、本当に七十年も生きてるの?」
「ぐっ」
 遥は雅樹の背筋に手刀を突き付け、そのまま脊髄へと突き立てる。
「その間、本当に無意味に生きてきたでしょ。だから思考が浅はかなのね。七十年、真面目に生きていたら、きっと見られるくらいにはなったと思うのに。それとも」
 視線が虚空へと向く。
「あなたが、言いたくなかっただけなのかしら」
「え、穂香、何言って、泣くな! 落ち着け!!」
「ここかな」
 穂香は空いている右手を地面へと打ち抜き、そして、何かを、引き出した。
 それは。
「何……あれ……」
 そこには、何も、ない。
 だが、
「何って言われても……」
 リシュネも、少年も、理解できない、何かが、掴まれている。
 ただ。
「あ”、あ”……」
 青ざめた顔で、舞だけは、理解していた。
「龍……脈……」
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