KAB-studio > 風雅、舞い > 第十三章 二人の間 (14)
風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (14)
 雅樹は、水槍を受け裂けた右肩を押さえ、うずくまっていた。
 うずくまるのは弱さの証拠。感覚が薄く、治癒能力のある雅樹にそのようなことを行う必要は全くない。現に、右肩の出血はすでに止まり、新しい皮膚が傷口を覆い隠そうとしていた。
 その雅樹を、舞は見下ろした。
「何よ、そのふぬけはッ!!!」
 歯を食いしばって見上げる雅樹。しかし、その表情に映るのは怒りではなく痛み。心の痛みを必死に堪えている、そんな表情だった。
「なんで、なんでそんな顔するのよ……」
「わりぃ、調子でねーわ」
 苦笑いを浮かべる雅樹。
 その頬が弾け、文字通り顎が外れる。
 息を荒げる舞、右手からは化学反応で発生した水蒸気が上がっている。
「はっ、はぁっ……」
「…………」
 雅樹は顎が回復する間、横を向いて、舞の方を見ようとはしなかった。
「はぁ……安心した」
 舞は体を覆う水を飛ばし、雅樹に手を伸ばす。
「今のあんたなら、死のうとしてもその前に縛り上げられる」
「かもな」
 雅樹は手を握り替えし、立ち上がる。
「お、終わった?」
 木陰から、体半分だけ出して智子が訊く。
「――あ! ごめんなさい、忘れてました!」
「私の事より、ここがどこなのかってことちゃんと憶えててよ」
 智子は地面を蹴る。玄き泉の丘は、木々が焼け、岩が砕かれ、地面が削ぎ落とされていた。
「あー……」
 やば……怒りで我忘れるとこうなっちゃうんだ私……。
 検索