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風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (15)
「え……」
 と、俊雄は信じられない、という表情をした。
『だーかーらー、お前は全く適性がないんだ。とっとと家に帰れ』
「お前は適性がないから邪魔だ帰れ」
 フィオはロベルトの言葉を棒読みで通訳する。
「そんなこと言っても……」
 智子は可能性があると言っていた。
 目の前の外国人は信用できない。
 そもそも、この子供の翻訳が全く正しくないように感じられた。
「でも、可能性はあるんですよね」
『可能性はあるのか』
『ねーよ、これっぽっちも。こんなの誤差の範囲内だろ』
「何かの勘違いだ」
 言葉の長さが全く違っていた。
「……」
 その言葉が全く信用できなくても、今は頼るしかない対象の頭のいい学者の前から立ち去るだけの度胸は俊雄にはなかった。何より、その体躯は脅威だった。
 俊雄は、乱暴な物言いもあって、雅樹を想像した。
『お前がいなきゃもっといい検体を用意できるだろ。金の無駄だ、帰れ』
「帰れ」
「それ短すぎでしょ……」
 ロベルトが背を向けたことで、踏ん切りを付けて俊雄は立ち上がる。数日後には智子が帰ってくる、それまでの辛抱のはずだ。
 ……そうじゃない、とは思う。
「……失礼します」
 そう断って、ロベルトの部屋を出る。
 彼の言っていることは、恐らく正しい。智子は積極的ではなかった。可能性があるというだけで、APには恐らくなれないのだろう、そう感じた。
「届かない」
 舞さんのいる所に、届かない。
 今この瞬間でさえ、舞さんは施設内にもいない。そして今、雅樹と共にいる。
 僕には、舞さんの隣にいる資格はないのだろうか。
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