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風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (16)
「ねぇ」
「えっ!?」
 いきなり背後から聞こえた声に、俊雄は振り向く。その視線の下に、金色の髪の少女がにっこり笑って立っていた。
「君……」
「フィオって呼んで。さっきはごめんなさい、あれはみんなパパが言ったことで私が言ったことじゃないんだからね」
 俊雄は苦笑いする。
「はは、それは分かってるから気にしなくていいよ」
 と言いつつも、今の口調と先ほどの棒読みとはあまりにも雰囲気が異なり、その違いに俊雄は戸惑っていた。
「で、本題なんだけど、帰る気がないんなら私の実験体にならない?」
「……へ?」
 その唐突な申し出は、理解を超えていた。
「信用できないのは無理もないけど、信用しなさい。あなたには時間がない、そうでしょう?」
「え」
「結白舞と同列になるためにAP化を望んでいる。でも朴雅樹に彼女を取られそう。悠長に待っている時間はないと思うんだけど」
 正論を述べる目の前の少女に、俊雄は飲み込まれていく。
「ひとつ、賭けをしない?」
「賭け?」
「そう、人生を賭けたギャンブル。あなたは一度、私は二度賭ける」
 フィオは手に持っていた紙の束を放り投げる。廊下に難解な言葉と数式で書かれた論文が舞い散っていく。
「AP化の原理、私はこの実験結果からある理を見つけた。科学というフィルタでしか観ることができないパパ達には理解できない、存在してはいけない理。今からそれを実行する」
「何を言って」
「成功したらあなたの体を提供しなさい、木村俊雄。私は二度目の賭け、私自身の肉体を提供する」
 パン!
 フィオは手を打合せ、手を交差し、右手を挙げ左手を回し、言葉に成らない声を紡いで指先は空を撫でる。でたらめな軌跡と誤った呪文がひとつの理を完成させ真実となる。
 瞬間、指先から火花が芽生え炎となって立ち上る。
「――――魔法」
「私はこの未知の世界に全てを賭ける」
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