KAB-studio > 風雅、舞い > 第十三章 二人の間 (17)
風雅、舞い - 第十三章 二人の間 (17)
 夜。
 見上げると、満天の星空が山々を包み込んでいた。
「まだ掛かるのか」
「徹夜でやるって。持ってきてるバッテリーが上がるまでやって、明日の朝帰るって言ってる」
「科学者ってのはそういうときは体力あるんだな」
 雅樹は地面に寝そべり、空を見上げる。
「寝るの?」
「知ってるだろ、俺は寝られない。意識が混濁することすらないからな」
「でも、この前」
「…………」
 神薙遥という女に打ちのめされたとき、雅樹は始めて、意識を失った。
「あれは特別なんだろ。寝ようと思っても絶対に寝れないからな」
「そういうもんなんだ。……やっぱ辛いの?」
「辛い。永遠に時間が続いていく、そう思い知らされると、絶望する」
 それは、滅多に言わない、雅樹の泣き言。
「洗礼を受けてからすぐにそう感じた。二十年くらい、ただひたすら暴れて何もかも忘れようとした。忘れることができないと気付いたら、そのあとの二十年は――」
 雅樹の透き通るような瞳に、夜空が刷り込んでいた。
「――死ぬ方法を探し続けた」
「…………」
 ただ生きるだけの人生。目標も目的もない、生かされるだけの生命。終わりがないということへの、恐怖。
「いくら自分を切り刻んでも、何度焼き尽くしても、死ぬことはなかった。どこにも、どんなに探しても、死ぬ方法は見つからなかった。それでもただひたすら、死ぬことだけを求めてたんだ、ただ死にたかったんだ、あの時は」
「私にも、なんとなくわかる、多分……」
 舞も横に並ぶように寝そべり、空を見上げる。
 寿命という点では比べようもなくても、まだ高校生の自分が、泉の力を持ち、それを使い、何かをしようとする。この、一般的ではない異常な人生を、いつまで続けなければいけないのか。
 もう、元の生活には戻れない。
「……でも、私には、今やらなきゃいけないことがあるなら、それをしたい」
 舞は雅樹の手を握った。
 雅樹はその手を離し、体を起こして、舞の上に体を置いた。
「舞、抱かせてくれ」
 検索