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風雅、舞い - 第十四章 混乱の我家 (2)
 ファインダウト社、特に医療関係のフロアを回ると、この二週間で様々なことが動きだしつつあるように感じられた。
 多くの研究員、医療スタッフが駆け回り、専門用語を叫び合っている。話の端々から、完成しつつあるAPがいること、その最終段階で色々と手間取っていることが聞き取れた。
 何があったのか聞いておきたいと感じてはいたが、智子の姿は見つからなかった。
 ……二週間いなかったし、ちょっと聞きづらいかも。
 一番聞きやすいのはリシュネだったが、その姿は見つからない。なのにちょこまかと駆け回るフィオだけはよく目に止まった。舞にとっては姿が似ていると感じられるため、勘違いをすることも度々あった。
 他によく話している相手といえば、少年や左洋一だろうか。逆に言えば、それくらいしかこの建物の中で知り合いはいない。
 ふと、自分がちっぽけなものに感じる。
 そして、いつも側にいた雅樹の存在感を。
 喧噪の中心に向かうように廊下を歩いていくと、廊下の長椅子に座る少年が見えた。
「どう……したの?」
 舞は息を飲む。
 椅子から見上げる少年の表情は、まさに年相応の、不安に満ちあふれたものだった。
「結白舞……いえ、なんでもありません」
 その顔に偽物の毅然とした表情が造り出される。
 舞は長椅子の端にある扉、その横に貼られた十重二十重のメモから「鳳 孝造」と「鳳 静間」いう名前を読み取ることができる。
 ほんの少し、その扉へと足を向けた瞬間。
「入るな!!」
 少年の怒声が響いた。
 舞が目を向ければ、そこには、巣を守る小動物のような必死な瞳があった。
「お前は……お前は、入るな」
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