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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (3)
「大丈夫。完全に回復したわね」
 数値を聞いたあとの智子の表情は、安心感というよりは誇らしげな満足感に充ちていた。
 舞はトラックの荷台へと目を向ける。そこにはカプセルが横たわり、その中で少年が寝かされているはずだった。
「喉が潰されていたように見えたんですけど」
「そういう傷ならむしろ直しやすいでしょうね。燃やされていたりすると焦げた部分を取り除いたりとかしなきゃいけないから大変だけど」
「そういう特殊能力は持っていないように見えました」
 少年の母親との戦いを思い出す。腕力に関しては非常に高いものを持っていたが、それ以外の特殊能力は使用していなかった。
「あのカプセルがあれば、どんな傷も治せるんですか?」
「ええ、APの回復システムは人間のものとは根本的に違うから。人間は細胞の複製を作るから、細胞そのものが完全に失われるとどうしようもないけど、APは身体情報を分散確保しているから失われた部位の組織も再生できるの」
「でも、脳はどうなんです?」
「再生できることは実験済み。原理ははわからないけど、意識や記憶も含めて完全に再生できるわ」
「実験……ですか」
「ちゃんと了解取ってからしたんだからね」
 ……なんだけど、それを言い出す左さんも左さんなら、受け入れるリシュネもリシュネよね……。
「その再生能力って、雅樹のものに近いんでしょうか」
「私の見解では、朴さんの方が上ね」
 密林での戦闘。雅樹は体の形を完全に失っていても、その状態から復活した。
「APの再生は、再生そのものは通常の細胞分裂に頼ってる部分が大きいんだけど、朴さんのはそれとは違うみたい」
「雅樹で実験してみます?」
「研究者としては興味があるけど……でもそんなことしたら殺されても文句は言えないわね」
 智子は鼻で笑うが、なんとなく未練を感じさせる声音だった。
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