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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (4)
 トラックがインターを降りた所で、舞は目を覚ます。
「あ……寝ちゃってすみません」
「いいのよ気にしないで。どうせ代わってもらえないんだし」
「それはそうなんですけど……」
 外は完全な闇。時計は夜7時を回っていた。
「今どの辺です?」
「あと2時間で町に着く、ってところ」
「まだ2時間も……町って?」
「彼のご両親がいた村にはこのトラックじゃ入れないから、直前の町で一泊してそれから徒歩で行くの」
「あれ、先生って……」
「もちろん行ったことあるわよ。左さんに言われた時は半信半疑だったけど、あんな山村に本当に適性者がいるんだから不思議よね」
「適性……」
 少年の両親、そのふたりもAPになっていた。
「そのふたりって」
「その話はなしよ。知りたいなら彼に聞いて」
「約束、っていうのですか?」
「約束じゃないわ、契約、よ。命を掛けたね」
「……先生って大変ですね」
「あなたたち前線ほどじゃないわよ。私としては、リスク以上に見返りがあると思っているし」
 不自由のない生活と倫理的に許されない研究は、怠惰な日々と安全を捨てるだけの理由になった。
「ここに彼の母親がいるっていうのは確実なんですか」
「逃走した方角から考えて間違いなく、ね。何より、彼がそう思っているんだし」
「ですね」
「ただ、あの村って広いのよね。家にいてくれればいいんだけど……それか、何か大事になってるか」
「あの、彼女を追う一番の目的ってなんですか?」
 智子は、少し考えてから、
「貴重な実験材料を取り戻しに来た、じゃ駄目?」
 と答えた。
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