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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (7)
「えーっと、ここでいいのかな」
 メモ帳に書き殴られた地図を頼りに、舞と少年は古びた温泉宿を探し当てる。木の柱、白い漆喰、少し昔の家屋、その軒先といった門構えだった。
「なんだか……汚い」
「えー、そっかな」
 温室育ちの少年にとっては抵抗のあるその雰囲気も、碧き泉にある実家を思い浮かべた舞にとっては、さほど抵抗のないものだった。
「ここ、このあたりで一番いいとこって聞いてるし、せっかく予約してくれたんだから」
 その予約をした智子は、トラックで留守番をしている。
『このカーゴの中の機材や情報がいくらすると思ってるの!! こんなの道に放置していったら盗んでくれって言ってるようなもんでしょ!?』
 と言って、頑なに離れようとはしなかった。
 だから、舞が少年を連れてきている。
「それに、キミが温泉入りたいって言ったんでしょ」
「そうだけど……」
 不満そうな表情を浮かべるが、かといって嫌というわけでもない。
「…………」
 最近の少年は、年相応の表情を見せてくれる、そう舞は感じた。
 リシュネもそうだったが、会ったばかりの時は非常に大人びていて、子供らしさを感じさせない、隙のない雰囲気を漂わせていた。だが、最近は少し丸く、人間くさくなってきている。
 ……両親のこととかあるからなのかな、それともこれが普通なのかな……。
「ま、とりあえず入ろ」
 舞は引き戸に手を掛けた。
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