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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (13)
「僕の父と母は、輸血によってHIVに感染していました」
「あ、だからAPに……」
 今日この場所にいる理由、それはAP化した少年の母親を追ってきたため。AP化することで治癒不可能な病気を治すことができる。それは、リシュネもそうだった。
「でも適合率が高かったのは僕だけだった。父と母はAPになれる可能性があまり高くなかった。それでも、AP化せざるを得なかった」
「確かに、病気を治すためには必要よね」
「でもやっぱり無理があったんだ……AP化が完了する直前に、拒絶反応が出て……」
 ファインダウト社の食堂で見せた、母親の挙動。少年の母親は、周りが全く見えていないようだった。
「僕も母子感染の可能性があった。そのためにAP化することになった……と言っても、多分左さんにとっては僕が一番の目的だったんだろうけど」
「え、それってなんだか脅してるみたいじゃない!」
 舞は思わず立ち上がる。湯が湯船から波を立ててこぼれ落ちる。
「僕は気にしてないよ、僕ひとりの命で父さんも母さんも救えるんだから」
「でも……」
 舞は拳を握りしめる。それを見て、少年は目を伏せる。
「――ありがとう」
「えっ?」
「でも、僕は納得している。それ以上の答えはないから。舞さんだって」
 伏せた目を開いて、少年は舞を見上げる。
「だから、ここにいるんでしょう?」
「……違う。だから、よ」
 泉の力を受け継ぐ者。
 その必要のなかった権利と共に与えられた数多くの制約と損失、このふたつを天秤に掛けて、釣り合うと、私は納得している。
 納得しているからこそ、せめて目の前の少年には、納得させられるような目には遭わせたくなかった。
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