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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (14)
「…………」
 こんな子供に、人生をあきらめたようなことを言って欲しくない、と思う。
 でもそれは、自分を否定しているようにも感じる。
 継ぐ言葉を失って、舞は浴槽へと腰掛けた。
 背に当たる外気は冷たいが、湯の中に浸けた膝下と、舞い上がる湯気は体を温めて、その二種類の感覚は、舞を心地よくさせる。
 見上げれば、星々が瞬く夜空を覆い隠す木々が、旅館の照明によって赤朱しく紅葉していた。木は、赤、黄、緑でモザイク状に彩られ、その美しいグラデーションに、舞は見とれる。
「……あの」
 と、少年にしては遠慮がちな声。
「……さっきの話、聞いてました?」
「もちろん聞いてたわよ。でもさ」
「いえ、そうじゃなくて……」
「?」
 下へ目を向ければ、少年の顔が、少し困ったような顔をしていた。
「僕の体は子供の物かもしれませんが、知識は大人のものを与えられています。それに、子供といっても――」
「……い!」
 少年は股間を押さえていて、舞は思わず立ち上がってしまった。
「……そか、そのくらいの年、なんだよね」
 と、学校で習った性教育や兄がどうだったかとかそういった知識が走馬燈のように駆けめぐるが、それはすべて何の役にも立たなかった。
「僕、出ますね」
「いいっていいって! 見えなくなればおさまるんだよ……ね」
 舞は急いで湯船の中に体を埋める。少年は何か言いたそうだったが、それでも風呂からは出なかった。腰から手を離して、意図的にリラックスしようとする。
 舞からは、水面が反射してさすがにそれを見ることはできない。……それは、あのときの雅樹のもののようになっているのだろうか。
 見ることはできなくても、感じ取ることはできる。「湯の中」という状況は、舞にとって「なんでもできる」ということだった。湯を通して、それがどのような状態になっているかも把握できるし、なでることも――。
「え、ちょ、あっ♪」
「あ”………………」
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