「これが四季、というものなんですよね」
「そうよね、このあと葉が落ちて、雪が降って、春になると芽が出て、夏にはまた緑の葉がつくんだろうけど」
「それが生命の営みなのかな、って」
「生命の……?」
「生まれて死ぬ。枯れ落ちて生え替わる」
それが、生物としての当たり前。
「ヒトも、古い細胞を捨て、新しい細胞を生み、それを積み重ねていくことで成長する」
少年は湯から手を出し、眺める。その手のひらは、小さい子供の手。
「僕たちAPは、長寿と同時に不老も得た。この体は、老いることもなければ、成長もしない。僕たちの時間はここで止まってしまっている」
大人になれない、ということ。
「両親が死ななかったことはもちろんうれしい、けれど、でも僕は、どうやって育っていけばいいんだろう。子供として? 大人として? 甘えていいの? どうすればいいの?」
再び少年は、空の木々を見上げる。
「たとえそこに、避けたい死というものがあったとしても……それでも、春に生まれ、夏に育ち、秋に老い、冬に死す――その環は美しいと思うし、大切な何かがあるような気がする。今の僕にはない何かが」
その言葉を聞いて、舞も木々を見上げる。天井を覆う葉の変遷が、手に取るように思い浮かぶ。
春。雅樹と出逢ったあの公園は、桜の花びらが満開だった。
夏。泉へと帰る道程、森の木々は濃緑色の葉をどこまでも生い茂らせていた。
秋、こうしてその緑の葉を赤く染め上げて、やがて来る冬に備えている。
手を伸ばせば、手のひらへと赤い葉がひらひらと落ちてくる。やがてすべての葉は枯れ落ち、白い雪の中、裸となった木々は年を越す準備をするのだろう。
そしてまた、春には新しい芽が生まれる。
四季の変遷を思い描けば、それは風流で美しく、雅であり荘厳であった。
それを否定する者が、ここにいる。
「僕たちAPは、自然の摂理に反している。左さんは、この自然というものを相手に何をしようとしてるんだろう。反抗? 弄んでいる? それとも――」
突然強い風が吹き、木々から葉を根こそぎ刈り取っていく。そして、無数の葉が、ゆっくりと舞い落ちていった。
「そうよね、このあと葉が落ちて、雪が降って、春になると芽が出て、夏にはまた緑の葉がつくんだろうけど」
「それが生命の営みなのかな、って」
「生命の……?」
「生まれて死ぬ。枯れ落ちて生え替わる」
それが、生物としての当たり前。
「ヒトも、古い細胞を捨て、新しい細胞を生み、それを積み重ねていくことで成長する」
少年は湯から手を出し、眺める。その手のひらは、小さい子供の手。
「僕たちAPは、長寿と同時に不老も得た。この体は、老いることもなければ、成長もしない。僕たちの時間はここで止まってしまっている」
大人になれない、ということ。
「両親が死ななかったことはもちろんうれしい、けれど、でも僕は、どうやって育っていけばいいんだろう。子供として? 大人として? 甘えていいの? どうすればいいの?」
再び少年は、空の木々を見上げる。
「たとえそこに、避けたい死というものがあったとしても……それでも、春に生まれ、夏に育ち、秋に老い、冬に死す――その環は美しいと思うし、大切な何かがあるような気がする。今の僕にはない何かが」
その言葉を聞いて、舞も木々を見上げる。天井を覆う葉の変遷が、手に取るように思い浮かぶ。
春。雅樹と出逢ったあの公園は、桜の花びらが満開だった。
夏。泉へと帰る道程、森の木々は濃緑色の葉をどこまでも生い茂らせていた。
秋、こうしてその緑の葉を赤く染め上げて、やがて来る冬に備えている。
手を伸ばせば、手のひらへと赤い葉がひらひらと落ちてくる。やがてすべての葉は枯れ落ち、白い雪の中、裸となった木々は年を越す準備をするのだろう。
そしてまた、春には新しい芽が生まれる。
四季の変遷を思い描けば、それは風流で美しく、雅であり荘厳であった。
それを否定する者が、ここにいる。
「僕たちAPは、自然の摂理に反している。左さんは、この自然というものを相手に何をしようとしてるんだろう。反抗? 弄んでいる? それとも――」
突然強い風が吹き、木々から葉を根こそぎ刈り取っていく。そして、無数の葉が、ゆっくりと舞い落ちていった。