「忘れ物ない?」
少年はうなずき、廊下をついてくる。
「お代はすでに頂いておりますから。でもよろしいんですか? 泊まっていかれてもよろしいのに」
舞の前を歩く女将が尋ねてくる。
「そうしたいところなんですけど、待たせちゃっているんで……」
舞自身、しどろもどろの回答だなと思う。嘘をついている、というのもあれば、正直、このまま泊まりたいという気持ちもある。玄関まで来ると外の寒気が感じられて、本当に智子を置いて泊まりたいとさえ思った。靴を履きながら、襟元を締める。
「よろしければこちらをどうぞ」
女将が三つ折りのパンフレットを二人に渡す。それはこの温泉街とその周辺の地図だった。
「まだこちらにご逗留なさるのなら、そちらを参考になさってください」
「あ、はい……」
裏面には広域地図が描かれていた。そこにはゴルフ場や、さらに山奥にはスキー場があった。
「ねぇ、この中にある?」
少年は首を振る。
「……僕、知らないんだ」
「あ、そかごめん」
「でも……たぶんこの辺だと思う」
少年が指さした所は、温泉街からは近いものの、山以外他にない場所だった。
「ここね……これも先生の役に立つかな。あ、ありがとうございます、頂いていきますね」
舞は温泉のお礼も兼ねてお辞儀をし、少年もつられて頭を下げる。
「いえいえ、それではまたの起こしをお待ちしております」
「はい、温泉ありがとうございました」
「……うん、ありがとうございました」
二人はもう一度頭を下げて、狭い玄関を出た。体が温かい分、顔に当たる風がいっそう冷たく感じられた。
「……あれ?」
舞は違和感を感じて、一瞬だけ後ろを向く。だが、その違和感の理由に、思い当たらなかった。
少年はうなずき、廊下をついてくる。
「お代はすでに頂いておりますから。でもよろしいんですか? 泊まっていかれてもよろしいのに」
舞の前を歩く女将が尋ねてくる。
「そうしたいところなんですけど、待たせちゃっているんで……」
舞自身、しどろもどろの回答だなと思う。嘘をついている、というのもあれば、正直、このまま泊まりたいという気持ちもある。玄関まで来ると外の寒気が感じられて、本当に智子を置いて泊まりたいとさえ思った。靴を履きながら、襟元を締める。
「よろしければこちらをどうぞ」
女将が三つ折りのパンフレットを二人に渡す。それはこの温泉街とその周辺の地図だった。
「まだこちらにご逗留なさるのなら、そちらを参考になさってください」
「あ、はい……」
裏面には広域地図が描かれていた。そこにはゴルフ場や、さらに山奥にはスキー場があった。
「ねぇ、この中にある?」
少年は首を振る。
「……僕、知らないんだ」
「あ、そかごめん」
「でも……たぶんこの辺だと思う」
少年が指さした所は、温泉街からは近いものの、山以外他にない場所だった。
「ここね……これも先生の役に立つかな。あ、ありがとうございます、頂いていきますね」
舞は温泉のお礼も兼ねてお辞儀をし、少年もつられて頭を下げる。
「いえいえ、それではまたの起こしをお待ちしております」
「はい、温泉ありがとうございました」
「……うん、ありがとうございました」
二人はもう一度頭を下げて、狭い玄関を出た。体が温かい分、顔に当たる風がいっそう冷たく感じられた。
「……あれ?」
舞は違和感を感じて、一瞬だけ後ろを向く。だが、その違和感の理由に、思い当たらなかった。