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風雅、舞い - 第十五章 濁る澱み、清らかな血溜り (18)
「あ、そだ」
「?」
 舞はさっきもらったパンフレットを早速開き、温泉街の地図を見る。
「先生にごはん買ってきてって言われてたんだ。私もおなか空いたし」
「僕はいいから」
「……」
 少しの間、少年を見つめてから、にっこり笑って。
「じゃあ、おみやげでも買ってく?」
「え?」
 川沿いの道には店が並び、様々な郷土土産や食べ物が売られていた。夜遅い時間だったが、浴衣姿の老若男女が買い物をして賑わっていた。
「先生からお金もらってるし、安いものだったら買ってもいいと思うよ」
 そう言われても、と少年は思う。知識とは関係ない「好み」というものは、少年の苦手とする所だった。
「あ、とりあえずあれ買お」
 舞は少年の手を引いて店の前に行く。店頭ではせんべいが焼かれていて、甘い醤油の匂いが上がっている。
 コオオオオン……。
 どれを買おうかと迷い始めた瞬間、聞き覚えのある音色が響く。店の端に、旅館で見かけたものに似た鐘が吊り下げられていた。
「お姉ちゃん、どれにする? どれもおいしいよ!」
 はちまきを締めた男がせんべいを裏返しながら舞に尋ね、注意をせんべいに戻す。戻しながら、先ほどの違和感がなんだったのか理解した。
「えっと、甘醤油ふたつ、辛醤油ふたつ、七味ひとつとわさびひとつで」
「あいよ。お二人さん、どっからきたの?」
「えーっと、東京の方から……」
「へぇそうなんだ。それじゃこっちは寒いでしょ。このせんべい熱々のできたてだから暖まるよ! ところでその坊やは弟」
「あ、あの、あの鐘ってなんです?」
 と、舞は無理矢理話の方向をねじ曲げた。
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